映画パターソンに出てくる詩人達(ロン・パジェット他)まとめ

※ネタバレしません。

パターソン公開ポスター

監督も言っているが、本作を「一編の詩」としての会話の間の取り方や演出を楽しむ作品だ。間違ってもストーリーは追ってはならない。起承転結なんてもってのほか。

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基本情報

監督・脚本
ジム・ジャームッシュ
公開
2016年(米国),2017年(日本)
製作国
アメリカ合衆国、ドイツ、フランス

キャスト

パターソン-アダム・ドライバー
ローラ(パターソンの恋人)-ゴルシフテ・ファラハニ
マーヴィン(イングリッシュ・ブルドッグ)-ネリー
ドク(バーのオーナー)-バリー・シャバカ・ヘンリー
ドクの恋人-ジョニー・メイ
サム(バーの友達)-トレヴァー・パラム
デイヴ(サムの兄弟)-トロイ・T・パラム
ドニー(バス車庫長)-リズワン・マンジ
エヴェレット(恋に悩む男)-ウィリアム・ジャクソン・ハーパー
マリー(エヴェレットが恋する女)-チャステン・ハーモン
メソッド・マン(コインランドリーのラッパー)-クリフ・スミス
若い詩人-スターリング・ジェリンズ

スタッフ

美術:マーク・フリードバーグ
衣装:キャサリン・ジョージ
音響:ロバート・ハイン
撮影:フレデリック・エルムズ
編集:アルフォンソ・ゴンサルヴェス
音楽:
Sqürl(ジム・ジャームッシュ、カーター・ローガン、シェーン・ストーンバック)
プロデューサー:
ジョシュア・アストラカン、カーター・ローガン
エグゼクティブ・プロデューサー:ダニエル・バウアー、ロナルド・ボズマン、ジャン・ラバディ、オリヴァー・シモン
提供:
アマゾン・スタジオ、アニマル・キングダム、インクジェット・プロダクションズ、K5フィルム、Le Pacte
配給:ロングライド(日本)

出品、受賞、ノミネーション

ラボール シネマ&映画音楽祭 イビスドール最優秀映画賞
第21回ロサンゼルス映画批評家協会賞 最優秀男優:アダム・ドライバー
第20回トロント映画批評家協会賞 最優秀男優賞:アダム・ドライバー
第69回カンヌ国際映画祭 オフィシャルコンペティション出品

あらすじ

パターソン(アダム・ドライバー)はニュージャージー州、パターソン市のバス運転手。彼の一日は午前6時すぎ、隣に眠る妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスすることから始まる。そして、朝食をとり、家から車庫まで歩いて、運転手としての業務をこなす。フロントガラスから見える街を眺め、周囲の会話に耳を傾けるうち、彼の中に詩が生まれる。それを秘密のノートに書きとめていく。帰宅後はローラと夕食、そして愛犬マーヴィン(ネリー)と夜の散歩。バーへ立ち寄り、一杯だけ飲んで、ビールの匂いと共にローラのそばで眠りにつく。そんな変化のない毎日の中に起きる小さな出来事(当人達にとっては大きな出来事)がかたち作る毎日を描いた作品。

監督ージム・ジャームッシューより

「パターソン」は、ひっそりとした物語で、主人公達にドラマチックな緊張らしき出来事は一切ない。物語の構造はシンプルであり、彼らの人生における7日間を追うだけだ。「パターソン」はディティールやバリエーション、日々のやりとりに内在する詩を賛美し、ダークでやたらとドラマチックな映画、あるいはアクション志向の作品に対する一種の解毒剤となることを意図している。本作品は、ただ過ぎ去っていくのを眺める映画である。例えば、忘れ去られた小さな街で機械式ゴンドラのように移動する公共バスの車窓から見える景色のように。

出てくる詩人

私はこういう映画の中のうんちくや実在するものとリンクする感覚がとても好きなので、なるたけ映画に出てくる実際のものは書いて皆様と共有したい。

本作の主人公は詩人で、パターソンという映画も詩からインスピレーションを強く受けている。
背景にある詩を知る事で本作への感想や印象はより色濃くなるだろう。

①ロン・パジェットRon Padgett (1942-現77歳)

本作で主人公パターソンが作った作品は全て著者のもの。
旧作“Love Poem,” “Glow,” “Pumpkin,” “Poem.”
-「Collected Poems(2013)」より-
新作”the run””Alone and Not Alone” “anther one””Water falls”他。
また、「Collected Poems(2013)」は、2014年にウィリアム・カーロス・ウィリアムズ賞/及びロサンゼルス・タイムズ文学賞も受賞している。「how long」はピューリッツアー賞詩部門の最終選考作となっている。

人物
1942年6月17日、オクラホマ州タルサ生まれ。
アメリカの詩人、エッセイスト、フィクションライター、翻訳者、ニューヨークスクールのメンバー。
パジェットの最初の詩集である「Bean Spasms」は、1967年にTed Berriganと友に執筆し、2009年Shelley Memorial Awardを受賞。
経歴
1959年
パジェットは17歳高校生の頃、前衛文学誌「The White Dove Review(白い鳩のレヴュー)」を彼の友人や同僚のジョー・ブレーナードとディック・ギャラップ、学生詩人Ted Berriganらと共に共同設立。後にブラックマウンテンやビート文学と呼ばれるようになるAllen GinsbergやRobert Creeley等の作家達の作品を掲載した。
1960年
ニューヨークに移り、Columbia Collegeに入学。
1965年
フルブライトを受賞。フランスの詩を学び翻訳するため、パリで1年間過ごした。
ー最終的にニューヨークのイーストビレッジを自宅とし腰を据えた。第二世代のニューヨークスクール詩人の重要人物となる。

※ニューヨーク派第一世代は下記に紹介しているジョン・アッシュベリー、フランク・オハラなど。
※フルブライト-米国奨学生プログラム、アメリカの学者や専門家に助成金を出し海外に送り、最大1年間の講義や研究を行える。

職業は教師でアメリカ詩人アカデミーの学長でもある。
また、サン・マルコ教会のPoetry Projectのディレクター(教師と作家のコラボレーティブな出版物のディレクターでもある)

現在、日本語著作はない。
著者の作品を邦訳したものを最も早く観れる唯一の作品がこの映画「パターソン」というわけだ。
これを機に翻訳作品が出てきてくれる事を切に願う。
(2編程これを機に紹介する。私の自主翻訳なのでそこはas feelingで)

「Water falls」

Water falls
from the bright air
It falls like hair

Falling across a young girl’s shoulders
Water falls

Making pools in the asfalt
Dirty mirrors with clouds and buildings inside

It falls on the roof of my house
Falls on my mother
and on my hair

Most people call it rain

「水が落ちる」

明るい空気から水が落ちる
それは髪のように落ちる
若い女の子の肩に落ちる
水が落ちる

アスファルトにプールを作る
雲と建物が内側にある汚れた鏡

それは私の家の屋根に落ちる
私の母と私の髪の上に落ちる

ほとんどの人はそれを雨と呼びます

「Poem」

I’m in the house.
It’s nice out: warm
sun on cold snow.

First day of spring
or last of winter.

My legs run down
the stairs and out
the door, my top
half here typing

「詩」

私は家の中にいます。
外は気持ちよさそうです。

冷たい雪の上に降り注ぐ暖かな日差し。
春の初めか、または、
冬の終わりの一日。
私の足は駆け下りていく
外の扉へと続く階段を
私の上半身はここで書いている。

ーーー
本作の何遍かから感じ取れる印象は、素朴で、日常的な1センテンスから広がっていく内宇宙だ。ささやかに広がる感情や、さりげない心情の膨らみが心安らかにしてくれる。

上記2編とは別に特徴的なのは、オハイオブルーチップマッチを押し過ぎな“Love Poem,”だろう。映画を観終わった後、妙にこのマッチ箱が愛しく感じられるから不思議。

オハイオブルーチップマッチ

②ウィリアム・カーロス・ウィリアム(1883-1963)

本作「パターソン」のモデル詩を書いた人。劇中、日本人詩人(永瀬正敏)が持っていたのも同書。長編詩だ。

本編にも出てくるとても有名な1遍。「This Is Just To Say」
二人の関係をゆったり、お茶目に切り取ったチャーミングな一作。
気になった方は他の詩も読んでみてほしい。

他、著者の有名詩
『The Red Wheelbarrow』は彼の一番有名な詩だ。
http://www.poets.org/poetsorg/poem/red-wheelbarrow
『Landscape With The Fall of Icarus』
→ http://www.poets.org/poetsorg/poem/landscape-fall-icarus

③フランク・オハラ(1926-1966)

アメリカの作家、詩人、20世紀ニューヨーク派の代表的な人物。
オハラの詩は個人的なもので、「日記のようなもの」と評される事が多い。本作とも共通項が多く、繊細でディティールに富んでいる詩が多いのも特徴だ。パターソンでは、著作”lunch times”が使われている。

こちらも出版物としては翻訳作品なし。草思社あたり早く出してくれ。
そんな訳で、1遍だけ紹介しよう。

「The Day Lady Died」

It is 12:20 in New York a Friday
three days after Bastille day, yes
it is 1959 and I go get a shoeshine
because I will get off the 4:19 in Easthampton
at 7:15 and then go straight to dinner
and I don’t know the people who will feed me

I walk up the muggy street beginning to sun
and have a hamburger and a malted and buy
an ugly NEW WORLD WRITING to see what the poets
in Ghana are doing these days
I go on to the bank
and Miss Stillwagon (first name Linda I once heard)
doesn’t even look up my balance for once in her life
and in the GOLDEN GRIFFIN I get a little Verlaine
for Patsy with drawings by Bonnard although I do
think of Hesiod, trans. Richmond Lattimore or
Brendan Behan’s new play or Le Balcon or Les N??gres
of Genet, but I don’t, I stick with Verlaine
after practically going to sleep with quandariness

and for Mike I just stroll into the PARK LANE
Liquor Store and ask for a bottle of Strega and
then I go back where I came from to 6th Avenue
and the tobacconist in the Ziegfeld Theatre and
casually ask for a carton of Gauloises and a carton
of Picayunes, and a NEW YORK POST with her face on it

and I am sweating a lot by now and thinking of
leaning on the john door in the 5 SPOT
while she whispered a song along the keyboard
to Mal Waldron and everyone and I stopped breathing

「彼女が死んだ日」

金曜日、12:20、ニューヨーク
バスティーユ・デイの3日後、そう
1959年のこと、僕は靴を磨きに出かける
イーストハンプトンを4:19に発ち
7:15にはディナーに直行の予定だから
食べさせてくれる人は誰だろう

日が照りはじめ、蒸し暑い街を歩き
ハンバーガーをミルクでつめこみ、不細工な
ニュー・ワールド・ライティングを買い
ガーナの詩人の最近の仕事ぶりを見る
そのまま歩いて銀行に行くと
ミス・スティルワゴン(名前はリンダと聞いた)は
僕の残高を一度だって見たことはないが
さらにゴールデン・グリフィンでヴェルレーヌを
買う、子供だましのボナールのスケッチ付き
リッチモンド・ラティモア訳のヘシオドスか
ブレンダン・ビーアンの新しい芝居か
ジャン・ジェネのル・バルコンかル・ネグルも
考えるが、迷ったすえにヴェルレーヌにする

それからマイクにと思い、パーク・レインの
リカー・ストアに行き、ストレガを一本買い求めて
シックス・アヴェニューからきた道をもどり
ジークフェルト・シアターのタバコ屋に行き
いつものようにゴロワーズを一カートンと
ピカユーンを一カートンたのむが、彼女はうつぶせ

これでずいぶん汗をかき、ファイブ・スポットの
男子便所の扉にもたれようかと考えるが
ここで彼女は鍵盤の前でマル・ウォルドロンに
ささやきかけ、聴衆も私も息を止めたのだった

※レイディ・デイとはビリー・ホリデイの愛称であり、1959年7月17日事実ビリー・ホリデイの命日に当たる。

④ジョン・アッシュべリー(1927-2017)

20世紀後半、最も重要なニューヨーク派詩人の一人と目されている。
ジム・ジャームッシュ監督が影響を受けたフェイバリットに挙げる詩人の一人。

きわめて難解な詩をかきながら、評価はどんどん上がっているという不思議な詩人。抽象絵画のような表現を重視する前衛的な詩風ながら、その前衛性が正当に理解されている稀有な才人である。フランスのシュールレアリズム派に影響を受けている。
受賞歴
ピューリッツァー賞、ナショナルブック賞、イェール・イヤー・ポエッツ賞、ボリンゲン賞、ルース・リリー賞、グリフィン・インターナショナル賞、マッカーサー「天才」助成金など、殆どのアメリカの詩の賞を獲得している。

残念ながら難解な上に長いものが多いため、私の拙い英語力では邦訳できなかった。我こそはという方はぜひ挑戦してみてほしい。

⑤エミリー・ディキンソン(1830-1886)

双子少女の詩人との話の中に出てきた詩人。少女達もパターソンもエミリー・ディキンソンが好きらしい。私も大好きだ。嫌いな人はいるのだろうか。つい最近、映画化もした。

生前は全くの無名だったが、現在では20世紀の文学史上における最も重要な女流詩人の一人といわれている。社交場を嫌い、ほとんどを生家で過ごしていたため、どのような人物で、どのような生き方だったのか実は多くが未だに分かっていない。
だが、作品は数多く残っており、一編でも読めば心を撃ち抜かれる力強さ、ユニークなロマンを持った作品ばかりだ。大好きな詩は数多くあれど、その1つ

“I dwell in Possibility “–「私は可能性のなかに住んでいる」

という詩が特におすすめ。これぞ詩人!これぞ想像力と思う素晴らしい広がりのある詩。短いものが多いので、読みやすいので詩の入門編としても最適。

⑥ケネス・コック(1926-1997)

アメリカの詩人。劇作家。上述のフランク・オハラ、ジョン・アッシュベリーなどの詩人が、大きなインスピレーションを得た一人。
晩年はコロンビア大学で詩の授業を受け持っており、ジム・ジャームッシュ、ロン・パジェットもケネスの生徒だった。
詩教育の先駆的な本「願い、嘘と夢:詩を書く子供を教える」を発表し、詩教育に長年帰依した。詩人としての最大の責任は「非常に意味をなさないことであり、事態を真剣に受け止めないこと」であると主張している。本作(というよりジャームッシュ作品全般)にも受け継がれている素敵なな思想だと思う。娯楽作品にすら、私達は多くの事を求め過ぎているし、受け取り過ぎているのではないかというメッセージがある。

おまけ⑦アレン・ギンズバーグ(1922-2002)

おそらくニュージャージー州パターソン生まれで、日本で最も有名なのはアレン・ギンズバーグだ。「路上」の作家ジャック・ケルアック、「裸のランチ」のウィリアム・S・バロウズと共にビート文学というジャンルを生み出した一人。順応を迫られるも反逆を貫き、長髪にマリファナに髭という後の「ヒッピー」文化の産みの親の一人だ。寺山修司が大ファンだった事でも有名である。刊行まもなく発禁になった「吠える」、”吐血する言葉達”という形容を産んだ激烈な作品「カディッシュ」とジム・ジャームッシュとは毛色の違う詩人だが、「パターソン 詩人」で調べると出てくるウィリアム・カーロス・ウィリアムに次いでヒットする二大巨頭である。

そしてクローネンバーグ監督によって「裸のランチ」は映画化もされている。

まとめ

冒頭にも言ったが、本作は映画のフォームをとった詩だと個人的には解釈している。なので詩についての感想はダラダラ書くものではない!多くのディティールに想いを馳せながら、眺めるように鑑賞する事をおすすめしたい。そして観終わったら、詩の一編でも読んで一息ついてみよう。そんな映画である。



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コメント

  1. 新潟県佐渡島でシネマCafeを営んでおります。遅ればせながら、只今(2018年9月現在)、『パターソン』を上映中です。とても、参考になりましたので、お店のSNS等でこちらのページのアドレスを貼りたいと思いますが、よろしいでしょうか?
    https://twitter.com/gashimacinema

    • ゲニヤ より:

      cafeガシマシネマ 店主様

      初めまして。ゲニヤと申します。
      わざわざご連絡ありがとうございます。
      全然、構いません!
      私も流入が増え、皆さんの目に触れる機会が増えるなら何よりです。

      HPやFB拝見させて頂きました。
      素敵なお店ですね!

      私もこんなの書いてるくらい映画大好きなんですが、今引っ越した先は映画館がなく
      もどかしい思いをしております。
      佐渡島自体行ったことがなかったので、ぜひ、一度観光がてら遊びに行きたいです。

  2. 堀田弥生 より:

    ゲニヤ様
    先のコメントを残した後もちょいちょいページを開いていましたのに、ご返信のコメントに気づくのが遅すぎで大失態です。昨日、慌ててSNSで紹介しました(..;)。実は、店内の“今月の本棚”には、印刷して展示してました。また、常設の本棚に、少し詩集を追加しました。『パターソン』好きのお客様にご案内します。ありがとうございます。是非、佐渡に映画を観にいらしてくださいね!