「ミラベルと魔法だらけの家」感想・考察 メガネのプリンセスが示す、いま愛が集まるキャラ

2021年〜2022年上半期で、過去のディズニーオリジナル楽曲の記録を塗り替えてしまった「秘密のブルーノ」が収録されている本作。楽曲製作を担当したリン=マニュエル・ミランダ(「ハミルトン」「イン・ザ・ハイツ」の監督)が凄いのはもはや言わずもがなだが、作品としても意欲的だ。何しろ本作はディズニー作品初の「メガネをかけたプリンセス」が主人公なのだから。

ここでは、そんな「メガネをかけたプリンセス」ことミラベルの新しさと魅力について語ろう。

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詳細情報

監督:
ジャレド・ブッシュ
バイロン・ハワード
脚本:
チャリーズ・カストロ・スミス
ジャレド・ブッシュ
原案:
ジャレッド・ブッシュ
バイロン・ハワード
チャリーズ・カストロ・スミス
ジェイソン・ハンド
ナンシー・クルーゼ
リン=マニュエル・ミランダ
出演:
ミラベル・マドリガル(15歳):
ステファニー・ベアトリス(英)/斎藤瑠希(日)
ミラベル・マドリガル(5歳):
ノエミ・ジョセフィーナ・フローレス(英)/中村優月(日)
アブエラ・アルマ・マドリガル:
マリア・セシリア・ボテロ(英)/中尾ミエ(日)
ブルーノ・マドリガル:
ジョン・レグイザモ(英)/中井和哉(日)
フェリックス・マドリガル:
マウロ・カスティージョ(英)/勝矢(日)
ルイーサ・マドリガル:
ジェシカ・ダロウ(英)/ゆめっち(3時のヒロイン)(日)
フリエッタ・マドリガル:
アンジー・セペダ(英)/冬馬由美(日)
ペパ・マドリガル:
カロリーナ・ガイタン(英)/藤田朋子(日)
イサベラ・マドリガル:
ダイアン・ゲレロ(英)/平野綾(日)
アグスティン・マドリガル:
ウィルマー・バルデラマ(英)/関智一(日)
カミロ・マドリガル:
レンジー・フェリズ(英)/畠中祐(日)
アントニオ・マドリガル:
ラヴィ・キャボット=コニャーズ(英)/木村新汰(日)
ドロレス・マドリガル:
アダッサ(英)/大平あひる(日)
マリアーノ・グスマン:
マルーマ(英)/武内駿輔(日)
音楽:
ジェルメーヌ・フランコ
公開:
2021年11月24日(米)
2021年11月26日(日)

[あらすじ]
魔法の力に包まれた、不思議な家に暮らすマドリガル家。家族全員が家から“魔法のギフト(才能)”を与えられるなか、ミラベルだけ何の魔法も使えなかった…。ある日、彼女は家に大きな“亀裂”があることに気づく──それは世界から魔法の力が失われていく前兆。家族を救うため、魔法のギフトを持たないミラベルが、“唯一の希望”として立ち上がる。なぜ彼女だけ魔法が使えないのか?そして魔法だらけの家に隠された驚くべき秘密とは!?(ディズニー公式HPより)

ミラベルの革新的なルック

ディズニープリンセスとは代々、その国の美人顔とプロポーションを持った造形をしているものだった。アナと雪の女王のエルサなどをイメージして頂けると分かりやすいだろう。

本作のアナベルはそうではない。メガネをかけており、ぷっくりとした鼻、中肉中背の体つき。極め付きは家族の中で唯一「目に見える才能」を持ち合わせていない。いくつものコンプレックスを抱えた「普通の女の子」である。

本作でいえば従来のプリンセス顔は、長女・イサベラだろう。「花を咲かせる」というギフト、家族から一番期待されているゴールデンチャイルドという立ち位置もプリンセスに最適だが、1姉妹の1人に甘んじている。

ディズニープリンセス映画史では稀にみる改革であり、多様性を重んじる時代の産物と言えるだろう。

ミラベルの成熟した人間性

私が注目したいのは、ミラベルの健康的な内面性と周囲の評価だ。ミラベルが自身の家族「マドリガル家」を紹介するミュージカルシーンでは、ギフトという魔法を行使して村の力になる家族たちを誇りに思っている雰囲気が存分に伝わってくる。

「ミラベルのギフトは?」と村の子どもたちに聞かれても苦笑いを向けるだけで、明るく元気な姿をふりまく。

何よりも、いとこ・アントニオが儀式でギフトを授かる日(自分の時は、家族で初めて授けられなかった)には、不安なアントニオを励まし、人々のアーチの中を、アントニオと手をつないで伴奏する姿を見せる。その姿に誰もが好感と尊敬の念を抱くだろう。

アニメイトのインタビューの中で、パイロン・ハワード監督も

「ギフト」を自分が受け取ることは一生ないという事実ともう10年間も生きてきたミラベルなのに、従弟のためにその場に寄り添うことを厭わずに成熟した度量と優しい心をミラベルが示してくれる素晴らしい瞬間で、そんな彼女をわたしは愛さずにはいられません。

と同シーンの魅力を語っている。

周囲の温かさ

ギフトを持たない家族の一員であれば、馬鹿にされ、みそっかすにされそうなものだが、母と父はミラベルに愛を注ぎ、姉妹たちもまたミラベルを恥だと思うようなシーンは一度もない。

唯一、家を背負う祖母だけがミラベルに落胆と厳しさを向けているが、ミラベルは才能にこそ恵まれなかったものの、人にも環境にも恵まれた家庭で育った女の子として描かれている。先の村人たちとのミュージカルシーンで明るく振る舞う様子が自然に受け止められるのも、彼女はこうした環境の中で「セルフラブ」に対してもきちん向き合っているからだろう。

また、周囲よりも努力しなければいけないポジションではあるが、日本の少年マンガやアニメのように、家族の伝統にがんじがらめの呪いをかけられることもなく、家族を愛し、自分を卑下せず、自分に出来ることをしようとしている。ある意味とても匿名性が高く自分ごとにしやすいキャラクターなのだ。

絵日記のような衣装

ミラベルのメンタルの健やかさは、可愛らしい刺繍が施された衣装にも現れている。シネマトゥデイのインタビューに対してシャリース・カストロ・スミス(共同監督・脚本)は

「ミラベルの衣装は特に興味深い。なぜならある意味、絵日記のようになっているから! 彼女は実際に起きたことを服に刺繍していて、彼女のスカートやトップスの細部に注目すればいろんなことが分かる」

と述べている。実は作中に色々な状況変化があるたびに、服の刺繍も変化しているのである。これは、蝶などのキーとなるモチーフの描写としても効果的なだけでなく、彼女が日々の一瞬一瞬を大切にしていることにもつながっているように思う。そして、それは、毎日をハッピーに過ごす上で欠かせない大切なことの一つだ。

自室を持たないヒロイン

ギフトを授かると家の中に自分だけの部屋を持てる。という仕組みも面白い。その結果、ミラベルには仮の部屋しかなく、自分だけの場所を持ち合わせていない。

逆に言えば、家のどこでも自分がいる場所が居場所であり、どこにだって許可さえあれば腰をおろすことができる。いわゆる「家族内ノマド」なのだ。

彼女はノンギフトという特徴ゆえ、家族の中にあっては誰かの力を借りやすく、それゆえに誰かと共にいる。だからこそ、ブルーノを見つけ、イザベラの心を解放し、アルマの心の澱をすくうこともできる。これもまた「ゆるい連帯」という今日の価値観に非常にマッチすると私は思う。

家でたとえるところの「リビングのような存在」がミラベルであり、そのことはラストシーンのカシータマジックにもつながっているだろう。

これらの多様な要素から、ミラベルは今もっとも素直に愛せるキャラクターになっているのだ。

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