MCUとしては「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」に次ぐ作品であり、スティーヴン・ストレンジ の主役作品としては「ドクター・ストレンジ」(2017)以来の第2作目である。とはいえ、「ドクター・ストレンジ」以来見てない人にとってはかなり混乱する。
最低でも「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」「アベンジャーズ エンドゲーム」は事前の必修作品。さらにいえば「ワンダヴィジョン(ディズニープラス/MCUドラマ)」と地続きであり、スティーヴンのキャラクタードラマを深く知るには、「ホワット・イフ…? What If…?↓(ディズニープラス/アニメシリーズ)」と本作と同じくマイケル・ウォルドロンが脚本を手がけた「ロキ(ディズニープラス/MCUドラマ)」も知っていた方がより良いだろう。
ちなみに私は「ワンダヴィジョン」「ホワット・イフ…? What If…?↓」「ロキ」は観ていない。その状態で本作を観た際の「キャラクタードラマ」にスポットを当てて、感想と考察をしていく。
※ネタバレします
基本情報
監督:サム・ライミ
脚本:
ジェイド・バートレット
マイケル・ウォルドロン
原作:
スタン・リー
スティーヴ・ディッコ
『ドクター・ストレンジ』
製作:ケヴィン・ファイギ
製作総指揮:スコット・デリクソン
出演:
スティーヴン・ストレンジ / ドクター・ストレンジ:
ベネディクト・カンバーバッチ
ワンダ・マキシモフ / スカーレット・ウィッチ:
エリザベス・オルセン
ウォン:
ベネディクト・ウォン
クリスティーン・パーマー:
レイチェル・マクアダムス
アメリカ・チャベス:
ソーチー・ゴメス
トミー・マキシモフ:
ジェット・クライン
ビリー・マキシモフ:
ジュリアン・ヒルヤード
音楽:ダニー・エルフマン
撮影:ジョン・マシソン
公開:
2022年5月4日(日)
2022年5月6日(米)
【あらすじ】
元天才外科医にして、上から目線の最強の魔術師ドクター・ストレンジ。時間と空間を変幻自在に操る彼の魔術の中でも、最も危険とされる禁断の呪文によって“マルチバース”と呼ばれる謎に満ちた狂気の扉が開かれた──。
何もかもが変わりつつある世界を元に戻すため、ストレンジはかつてアベンジャーズを脅かすほど強大な力を見せたスカーレット・ウィッチことワンダに助けを求める。しかし、マルチバースの世界では、ドクター・ストレンジと全く同じ姿をした恐るべき脅威や世界を渡る新たな邪悪な力が人類、そして全宇宙に迫っていた。
テーマは「孤立と信頼」、しかし可愛そうなワンダ
異なる宇宙では似たような世界があり、そこでは全く別の自分たちが異なる生活をしているという“マルチバース”論を大々的に展開しており、本作には4人のスティーヴンが存在し、ワンダも2人いる。
この複数の自分が存在する世界線の中にあって本作のワンダは完全に孤立しており、「偽りの家族を現実にする」という妄執に取り憑かれており、その演出は淡い夢物語のようで余計に彼女の喪失と不遇が痛いほど伝わってくる。
対して、スティーヴンには常に仲間がいるのだが、独立独歩のスタイルを崩さず、重大なことを事前に打ち明けられず大惨事になってしまう3種類の未来が描かれる。
この「取り戻せない喪失」問題における一つの模範的回答は「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」で一度提示されている。同じく”マルチバース”を主舞台とした本作ではチームや対話という選択肢を取らず「孤立の先にある姿」を何度も描いているのだ。そこには変わることができた本作の結末以外、不幸なシナリオが用意されている。
しかし、ワンダが作った幻の理想が現実に存在するという残酷さ。そして現実である以上、代替などできないというさらなる過酷さを描いているのはすごい。別世界のワンダも非情で救われない。そこまでワンダはこの世界線で悪いことをしたのかと同情してしまう。
ドクター・ストレンジが変われた理由は悪い自分の世界線しか行かなかったから?
スティーヴンがアメリカ・チャベスに対して「常に正しい世界へ導いてくれた」と告げるシーンがある。改めてその意味を思うと、傲慢で最強の魔術師ドクター・ストレンジの失敗パターン世界を3連続で見せたことではないだろうか。さすがのスタンドプレー野郎も自分が似たような要因で3度もしくじっていれば、考えを変えるというものだろう。
「幸せ」は信頼の形をしている
本作で何度も提示される「幸せか?」という問いの答えは「他人の力を信じて託すこと」だろう。それはクリスティーンが2度にわたり「あなたは自分でメスを持たないと気が済まない人」と言っているのにも呼応する。
「仲間の存在と信頼が世界を救う」はいくぶん安易すぎるメッセージだが、ワンダの顛末と3種の異なるスティーヴンの顛末によって、強大な力だけでは「幸せ」には決してたどり着けはしないのだという教訓的な要素もまた本作では伝えている。
擁護できない女性たちの描かれ方
今さらだが、本作のキャラクター演出はそれほど面白くない。安易なメッセージと救いのないワンダの描かれ方もそうだが、他の女性キャラクターも平板で人間的な魅力があまりないのだ。スティーヴンの元恋人というステータスだけのクリスティーン、逃げ隠れるばかりで、ほとんど深掘りされないアメリカ・チャベスと疑問点が多い。
スティーヴンとウォンのキャラクターや掛け合いは、MCUらしいウィットに飛んだものがあっただけに少し残念である。「音符を用いたマジック演出」「怨霊どんでん返描写」など映像的には意欲的な要素があり、情報量が多かったので、キャラクターでバランスを取ったのかもしれない。が、その点はあまり楽しめないことを最後に付け加えておきたい。