邦画界至高の傑作映画「ちはやふるー結び」(考察・超ネタバレ)これは太一の物語

ちはやふる結び公開ポスター

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基本情報

監督・脚本
小泉徳宏
原作
末次由紀
製作
今村司
市川南
出演
綾瀬千早-広瀬すず
真島太一-野村周平
綿谷新-新田真剣佑
大江奏-上白石萌音
西田優征-矢本悠馬
駒野勉森-永悠希
花野菫-優希美青
筑波秋博-佐野勇斗
我妻伊織-清原果耶
若宮詩暢-松岡茉優
周防久志-賀来賢人
公開日
2018年3月17日

あらすじ
瑞沢高校競技かるた部の1年生・綾瀬千早がクイーン・若宮詩暢と壮絶な戦いを繰り広げた全国大会から2年が経った。3年生になった千早たちは個性派揃いの新入生たちに振り回されながらも、高校生活最後の全国大会に向けて動き出す。一方、藤岡東高校に通う新は全国大会で千早たちと戦うため、かるた部創設に奔走していた。そんな中、瑞沢かるた部で思いがけないトラブルが起こる(映画.comより)

※原作、未読勢です。

もうね!めちゃくちゃ面白い!そしてみんな大好き!瑞沢かるた部のみんなも、新も、詩暢もオリキャラの我妻伊織も!もううみんな!キャラクターが輝いているのよ。どうせ原作ものだろ?と半ばバカにして観た上の句でまさかの号泣し、下の句で超胸熱になり、まさかの続編!歓喜!でも金儲け的、蛇足だったらやだなあと思ったら全然!もう素晴らしいとしか言えない。2018年邦画界の宝!って褒め足りないけど、あんまり書くと引くだろうから、ここら辺にします。演出も芝居も音楽も何でもすごいけど、ここでは考察という事で脚本とテーマとそこにたどり着く構成の素晴らしさについて考えてみたいと思います。

継承とチームの絆こそ一番強い!!

とにかく何度も思ったのはここだった。あれほど下の句で燃え上がった千早と詩暢の対決がないのもそのせいだ。クライマックスのラストシーンは団体戦の戦いであり、新が負けたのは太一ではなくて、瑞沢競技かるた部なのだ。
幼い頃、新から千早へそして、千早から太一へと繋がったかるたのバトンが、上の句、下の句、結びを経て生まれ育んだ瑞沢かるた部の五人へしっかりと届き、そして3年生最後の全国大会の舞台(本作)で後輩である菫と筑波へと渡した。この継承の物語こそが映画「ちはやふる」だったのだと私は思う。
そして本作の継承の要は、周防から太一へと手渡された師弟のバトンだ。本作結びは誰がなんと言おうと太一の物語だ。これは追って、深く語るが、周防名人から太一へと繋がったバトンは、太一が千早の元へ、瑞沢かるた部へ帰る為の鍵そのものだ。それゆえに本作は原作とは大きな改変を遂げている。

①、原作ではこの全国大会に太一は間に合わない。
②、その為、太一VS新ではなく、千早VS新である。
③、当然太一が勝つという事はない。

原作では、その後の大きな展開を見越してそうせざる得なかったという以上に、主人公一人一人のドラマでなければならないからだが、本作は個ではなくチームのドラマなのだ。太一が間に合ったのは、太一がいなければ「瑞沢かるた部」ではなかったからだし、太一が新に勝てたのは皆が隣で力を与えあったからだ。新の藤岡東が新設部の為、チーム感が逆にマイナスに作用したからとすら言ってしまっても良いかもしれない。では千早VS新ではどうだったか?これは才能VS才能の全く別の戦いになってしまっていた事と思う。千早は瑞沢かるた部にとって皆を引っ張っていく天才ムードメーカーだ。これまで常に誰かの為に頑張っていた太一だからこそ、チームの戦いの要になれるのだ。

周防は新のこうだったかもしれない未来の姿

本作での大きな山場に、三角関係の中にあった太一と新が戦うというものがある。そしてその為に太一の師匠役となったのがにほ最強の周防名人だ。周防名人の音の接し方を吸収し、新と対等に戦えるようになる。といういかにも少年漫画チックな展開の裏に、周防のドラマがある。それは師弟における継承のドラマそのものであり、こうだったかもしれない若かり頃への後悔の軌跡でもある。
日本最強の永世名人となった周防が、あまりにも強すぎて引退を決意しようと悩むそのひと時、さらなる強さを見出したのは、太一を強くする。”育てる”という事だった。その中で周防は、自分が果たせなかった一瞬の輝きを太一に託した。気づいた時には失っていた光(視力の事でもあり、またかるたへの憧れでもある)に後悔し続けた日々が、少しだけ未来の希望へと変える事ができた。それは諦めていたほのかな輝きなのだ。
これは、下の句で新が名人である祖父を亡くし、かるたから目を背けながらも目にした瑞沢かるた部のチームとしての強さ、絆、楽しそうな姿に心動かされ自身が大好きなかるたに、向き合うきっかけになったのと実は同じ構図だ。「一人じゃないからこそ救われた」本作が三部作を通して何度も伝えていたメインテーマだ。そう思うと周防の姿は、千早と太一がいなかった未来の新の姿だったのかもしれない。そんな”輝きを取り戻した”未来の新に育てらた太一と、千早ら瑞沢かるた部によって”輝く力をもらった”新が全国大会の決勝戦ぶつかり、新は敗れる。新は太一に敗れたのか?そうは言っていない。新は「瑞沢の三年間に負けた」のだ。継承と絆こそがもっとも強い力だと、何度も言ってはばからぬことこそ本作の一番の良さだ!

太一VS新の送り札シーンに込めれたいくつもの想いと構図

もっとも熱いのはクライマックスの 太一VS新 カードだったけれど、中でもこのシーン!すげえ!!
周到に張り巡らされたいくつもの背景や構図が凝縮して一気に吹き出すこの瞬間こそ映画の素晴らしさ!

1、千早をめぐる 力 対 力の対決。
これはもう全ての男子(ならぬ全人類)が共感できる。”○○は渡さねえ。この試合に勝った時はきっと…”というやつだ。男には負けられない戦いがあるんだよ。
2、小倉百人一首”しのぶれど”と”恋すてふ”の送り札の意味
本作における重要な和歌は5種あるが、そのうちの2種が”しのぶれど”と”恋すてふ”だ。

①しのぶれど 色に出でにけり わが恋(こひ)は ものや思ふと 人の問ふまで
平兼盛(40番) 『拾遺集』恋一・622

現代語訳
心に秘めてきたけれど、顔や表情に出てしまっていたようだ。私の恋は、「恋の想いごとでもしているのですか?」と、人に尋ねられるほどになって。

②恋すてふ(ちょう) わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
壬生忠見(41番) 『拾遺集』恋一・621

現代語訳
「恋している」という私の噂がもう立ってしまった。誰にも知られないように、心ひそかに思いはじめたばかりなのに。

この2種が本シーンでは重要な意味を持っていた。どちらも同じ、隠すことのできない恋心を歌っている。千年前の歌合せの同じ席で同時に読まれたこの歌共は秀逸すぎてとうとう甲乙つける事ができなかった作品だと本作中紹介されている。この2枚を最後の運命戦で、相手に送るシーンで太一は「恋すてふ」を新へ送るのだ。この時、太一は「しのぶれど」VS新「恋すてふ」という構図となる。これは千年を超えた歌合せの代理戦争であると同時に、太一と新の恋。千早へのアプローチの仕方ももちろん対比させている。告白して、その気持ちを誰もが知るところとなっている新VS見る人が見ればすぐに分かるが心にぐっと隠している太一。だ。そしてまた太一が「しのぶれど」を自陣に残す事を選択するということで太一のアプローチは変えない「告白はしない、だけど諦めもしない」という未来の意気込みをもこのシーンに込めているのである。そしてもちろん、上の句で、過去汚い手を使って勝とうとして以来、運命戦になるとなぜか勝てない太一のネガコンプレックスの払拭という伏線解消も含んでいる。素晴らしいシーンとは多重な意味が知らず知らず含まれているものだが、たったの1シーンにここまで収斂されているのは本当に素晴らしい!実に見応えがありました。
ついでに、太一が地味に「守りがるた」をこの戦いで初めて披露したのもとても良かった。新が掴む為に手を伸ばし頑張るタイプの人間なら、太一は手放さない為に手を広げ頑張るタイプの人間だからだ。そういった意味を含んでいた試合の中で、守りがるたであり、ラスト一枚のカタルシスを札を飛ばす事ではなく、守る方に当てたのがまた素晴らしい。結びは「太一の為のお話だ」と強く思いました。

これは太一が、自分自身の想いと向き合う話

散々太一の為の話だと語りましたが、では太一は本作で一体何から逃げ、どんな成長を遂げたのだろうか?ずばりこれは自分自身のかるたへの想いですね。クライマックスの決勝シーンで太一は(あいつらが賭けてるのは青春なんてものだけじゃなくて)とモノローグを口にしている通り彼自身が全てかけてかるたに打ち込む事で、どれほど”二人”に近づく事が出来るのか?というのが本作の影のテーマだったように思います。結局彼がかけたと思っているのは”全て”じゃなくて”青春”だと考えていたようです。それは瞬間的に言えば同じ事なんですけれど、その迷いや葛藤こそが太一の持ち味であり、”おまけ”で1年名人をやる位のテンションの周防を動かしたものだったんでしょう。周防に師事して以降、勉強するシーンが一切出てこない事でしか測れませんが、太一は全てをかける事でようやく千早と新と技術的にも気持ち的にも並ぶ事が出来たという流れはもう本当にスポ根です。さりげなく、西田先生もかるたの為に、体を酷使してて、もちろんかるたの為に治そうとしている。一人一人にスポットを当てると、本当ゴリゴリのスポ根になっちゃうのがまた本作の見所の一つですね。

輝いている青春の一瞬と、外から見る輝きの二つの視点が描かれている

ちはやふる結びシーン2
本作における「青春」とは何か?それは何かに一生懸命打ち込む事だ。と答えればそれで十分正解だが、それをより映像として鮮やかに、演出として分かりやすく描いている。作中の台詞をそのまま借りると「光り輝く一瞬を永遠に変える」にはどうすれば良いか?に向き合った作品なのだ。輝いてるシーンは、やっぱりクライマックスの千早と太一に集約されているんだけど、個人的に意識を向けた点は”一瞬”を通り過ぎた後の感情の揺らぎや高まり、趣きも表現されていたこと。パンフレットの中で広瀬すずはこう話している「1シーン終わるごとに、もう終わっちゃた……って思うんです」と。こういった熱を帯びた渦中にいる人間が、ふとした瞬間にしばしば感じる気持ちの描写が本作ではバンバン出てくる。奏と千早が二人で語る夕焼けの屋上、全国大会で涙する敗北チームの面々、一足先に敗北して前方に礼をする机くんなどなど、とにかく終わりゆくシーンが刻まれていく。
それだけではなく、本作では、ご丁寧に劇中和歌で2つも時の移ろいについて歌ったものを登場させ、さらに周防を通して「それで、君はこんなところで一体何をやっているんだ?」と煽ってまでくれる。渦中に入れなかった人間の視点をも描いてくれているのだ。

まとめ

まとめてみると本当に、クライマックスの団体戦に全てのテーマ、伏線、演出が収れんするように作られていて、これぞ理想のクライマックス像!と唸ります。今回は、主要なドラマのテーマのみしか語りませんでしたが、実は一番感動したのは、恋愛パートの千早ちゃん部室シーン。めちゃ切なかった!!そして、新キャラ達の弱さと頑張りの魅せ方もめちゃくちゃ良かったし我妻伊織-清原果耶に代表する藤岡東勢も皆すごいキャラも芝居も良くて、これだけ主役陣のテーマを厚くしているに新キャラも恋愛パートもきちんといい味出してるの本当何事かと思うわ。語りたい事多すぎるんですね。それでも大テーマも継承、青春、絆の3本柱を見事にまとめあげてたし、アニメーションもめっちゃ綺麗な上に透明度半端ないし、凄過ぎやんこの作品。

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