映画「ブラックパンサー」考察・超ネタバレ キルモンガーはなぜ復讐者になったのか?

blackpanther公開ポスター

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基本情報

監督
ライアン・クーグラー
脚本
ライアン・クーグラー、ジョー・ロバート・コール
原作
スタン・リー、ジャック・カービー
製作
ケヴィン・ファイギ
製作会社
マーベル・スタジオ
配給
ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
公開
2018年2月16日(米)、2018年3月1日(日)
製作国
アメリカ合衆国
言語
英語、コサ語、イボ語
前作
マイティ・ソー バトルロイヤル(マーベル・シネマティック・ユニバース前作)
次作
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(マーベル・シネマティック・ユニバース次作)
出演
ティ・チャラ / ブラックパンサー-チャドウィック・ボーズマン
エリック・“キルモンガー”・スティーヴンス / ウンジャダカ-マイケル・B・ジョーダン
ナキア-ルピタ・ニョンゴ
オコエ-ダナイ・グリラ
エヴェレット・ロス-マーティン・フリーマン
ウカビ-ダニエル・カルーヤ(英語版)
シュリ-レティーシャ・ライト
エムバク-ウィンストン・デューク(英語版)

あらすじ
アフリカの超文明国ワカンダの若き国王ティ・チャラが、漆黒のスーツと鋭い爪を武器に戦うブラックパンサーとして活躍する。絶大なパワーを秘めた鉱石「ヴィブラニウム」が産出するアフリカの国ワカンダは、その恩恵にあずかり目覚しい発展を遂げてきたが、ヴィブラニウムが悪用されることを防ぐため、代々の国王の下で、世界各国にスパイを放ち、秘密を守り通してきた。父のティ・チャカの死去に伴い、新たな王として即位したティ・チャラは、ワカンダの秘密を狙う元秘密工作員の男エリック・キルモンガーが、武器商人のユリシーズ・クロウと組んで暗躍していることを知り、国を守るために動き始めるが……
(「映画.com」より抜粋)

本作はハリウッドでは異例のほぼ黒人&女性(しかもバトルにもガンガン参加)キャストというかなり革新的な作品だ。その中でも、個人的に興味を引いたのは、仮想国であるワカンダが現実世界にとっての理想国家として描かれいる事だ。だが、その国も万事素晴らしい訳ではない。とりわけ他国に対する姿勢は完全に賛否が分かれる。それ故に、本作はスーパーパワーを持ったヒーローものというコミカルで、どう考えてもフィクションでありながらどこまでも政治的で、現実に置き換えて語りたくなる感想や考察を抱かせる作品となっている。巷のツイート曰く「観た人は自然と、今の国際社会のあり方や一国家人としての姿勢等を語らずしはいられない作品」なのだ。そこのところを掘り下げてみたい。

ワカンダという国は、一体どう理想郷なのか?

まずはここから。ワカンダは南アフリカ大陸にある。その地に存在するヴィヴラニウムという超鉱物のおかげで世界で最も貴重な資源と先端科学技術を持った国でありながら、他国との交流を極力行わず、超鉱石を輸出した莫大な資金力を駆使し、自身の力で繁栄を続けてきた国だ。その為、どんな国からも蹂躙、占領される事なく古くからの伝統文化を色濃く残している側面がある。それでいながら他国の情報を世界中に張り巡らせたスパイ情報網で把握し、領土拡大や世界を牛耳るという野心も持たず、ただただ自国の成長に役立てて来た。民主的な専制君主制であり、女性を国政の中枢に重用する事も厭わず男女の序列はおそらく均等である。これがワカンダという国だ。まるで現代の主要国家のいいとこ取りではないか!と同時に奴隷船に乗せられることのなかった黒人達のこうだったかもしれない国家の姿でもあるのだ。それでも、決して良いばかりでもないのが本作の素晴らしいところだ。

それぞれの儀式が示す意味

舟上や滝口の岩肌など、舞台は自然の中にあり、祖先が出て来るところなんかモロアフリカ土着のアニミズム(自然界のそれぞれのものに固有の霊が宿るという信仰)的だが、乗り物や街並みはどうしようもなくメタリカルで西欧合理主義的な機能美に満ちている。それでも伝統的な衣装、フェイスペイント、踊り(発音まで!)は現代にも受け継がれている。継承という意味を描くために、まず儀式の意味があるだと思う。
そもそも普通はこの都市合理主義と伝統アニミズムは対比的に描くところをミックスさせてしまったのが、本作の特に面白いところだが、真に興味深いのは、各部族が一堂に会しての”王の認証”だ。本作ではティ・チャラは世襲しているが、この儀式の形式は皆に”王への挑戦”の機会を与える民主的選定である。
それゆえに、理不尽な迫害への憎しみと圧倒的力による下克上に身を焦がすキルモンガーも一時は承認を経て、王となる。だがティ・チャラは世襲だ。父からブラックパンサーの力を事故的に受け継ぐ事となる。ここで山に引きこもっていたエムバクが異論を唱る、という目配せが丁寧で素晴らしい。単純な世襲制などでは決してあり得ず、あくまで選ばれ承認された人間が王となる。権力とは別の力を持った人間が、権力の座にすわる事が出来るという事こそ、民主主義が体得した一つの理念だ。
部族を隔ててなお王になる機会が国として存在する。民主的な王政の中にクーグラ監督の理想を見た気がした。
スーパーヒーローものだから今回はフィジカルで選ばれたけれど、ワカンダの王の儀式システムに組み込まれた尊さが心にしみる。

ワカンダの欠点は、排他的、閉鎖的な価値観

これぞ本作の葛藤のメインテーマでありながら、現代の世界情勢ひいては、共和党トランプ政権への明確な警鐘でありメッセージだ。冒頭1992年のアメリカ、カルフォルニア州オークランドから物語は始まる。オークランドは、クーグラ監督の故郷でもあり、デビュー作「フルートベール駅で」の事件(22歳の黒人男性が白人警察官に射殺された事件)が起きた地である。ここで話されるワカンダ人達の計画のやりとりは、1966年黒人民族主義運動の急進派であるブラックパンサー党が生まれた契機となる会話と重なるのではないか?
「人種による理不尽な迫害、不当な待遇、それに伴う貧困の増大。それらをただ見ている事は出来ない。我々が武力援助すれば待遇は改善できる」それを阻止したのが、当時のワカンダ王ティ・チャカだった。自国の伝統と混乱を恐れ他国への技術、資源を制限する為だ。上記であれだけ素晴らしい国家だったはずが、海外の不遇で悲惨な人々より既得権益を優先したのである。このグレーな判断こそワカンダの弱点であり、ティ・チャカはさらに裏切りに対する制裁の為、仲間殺しまで行うずれた倫理観に至ってはまるでマフィア組織だ。(1992年は同街の殺人事件件数が過去最高の165人だった年でもある)
この「素晴らしい力と品性を備えながら弱さと欠点も持っている」という要素はまるで、従来のMCUが描いて来た悩めるスーパーヒーロー像そのものではないだろうか?ティ・チャラの葛藤はそのままワカンダという国が世界のヒーローとなり得る可能性もまた示唆している。世界の警察を止めて内向きになってしまったアメリカへの皮肉も存分に込められているのだろうけど、この強固な閉鎖意識がエリック・キルモンガーという最大のヴィランを生むこととなったという意味で、むしろこれはこれからの現実世界の警鐘なのではないかとすら思う。閉鎖の輪の中に入れなかった人間は必ず敵となって牙をむくのだと。

エリック・キルモンガーが背負った血塗られた夢

”最も共感できる、ドラマを背負ったヴィラン”とそめはやされているキルモンガーだが、彼が背負ったものは、父のウンジョブが果たせなかった弱者による下克上であり、父を殺し自分を見捨てた祖国ワカンダへの復讐心だったが、それとは別にワカンダに密かに求めたものは自身のルーツ(失われた故郷)だ。とても哀しくも熱いシーンの一つが儀式に勝利し、キルモンガーが王となる為にオーブを飲み干し祖先達と言葉を交わす時。彼が舞い戻った場所はアフリカのサバンナではなくオークランドの父と過ごした公営アパート部屋だった。追放された父の子である彼の魂はワカンダの地には還れない。彼にとっても憧れと恨みの地であり、祖国ではない。だがこのアパートすらも、父を失った場所なのだ。この哀しさが一番私の心に染み込んできた。帰る場所をなくしてしまった男が叶えようとする夢は、こうなってしまった自分を生み出した世界の仕組みを壊すこと。向かう場所も帰る場所もないどこまでも救いのない思考展開が切ない。
それはそうと、キルモンガーがワカンダという国に対しても復讐を果たそうとしていた。ただの憧れの地などではない。ワカンダは父を育てもしたが、奪いもした国なのだから。
彼が行った事は全て国力を削ぐ行いだ。では何のために?彼が行った事をざっとまとめるとこうなる。

・ウカビをそそのかし、クーデターを勃発させた。
・万物の治療を行うオーブを畑を全て燃やした。
・ヴィヴラニウム製の武器を全世界にばらまいた。(未遂)

ワカンダ自体をヒーロー像として見ると、キルモンガーが行うべき復讐はワカンダが最も大切にして来た事を壊す行為であるはずだが彼が行った事は、結果的には国の力を貶める事だった。自分にとっても、世界にとっても特別な国で無くしたかったのではないだろうか?それほどに自分にとって特別な国だったのだ。どこまでも哀しい話である。

ワカンダの一番大切なものを壊したのはティ・チャラ国王

ワカンダが最も大切にしてきたものは、おそらくそれは秘匿性だったのではないかと思う。独力だったからこそ今のワカンダがあるのだ。(これはほぼ全土を植民地化された実際の南アフリカ大陸と対比するものでもある)これを壊したのは本当のヒーローであり、国王だったティ・チャラだった。キルモンガーの意思を継いで革命を成した為政者というのはどこまでも出来過ぎだけど、フィクションなのでこれくらいで良いんだ!
そしてラストシーンで、キルモンガーがもしオークランドに取り残されず、父も殺される事がなかったのなら描いたかもしれない夢をティ・チャラは世界に対して行っていくラストシーンで締められる。短いエンディングクレジットの後の名演説で理想国家ワカンダが世界(この場合はMCU)の中に組み込まれた事をしっかりと描いて終わる。ワカンダの戦いは始まったばかりなのだ。

まとめ

なんだか打ち切り最終回のような区切り方をしてしまいましたが、きちんとまとめます(笑)マイノリティがバリバリメインでめっちゃパワフルでそういう明確なスタンスやら、ヴィヴラニウムカーバトルアクションやブラックパンサーの忍者スタントも最高だったんですが、やはり本作は社会派ヒーローものだと思います。黒人ハリウッド映画の一つの契機でもあり、各国が自国ファーストを打ち出した世界史の1ページ中で浮かび上がったアンサーとしての娯楽大作です。さて、MUCの世界はワカンダという国をどう扱うのか。まだまだ続きが楽しみです。

「フルートベール駅で」は何気にNetflikxでもやってます!
https://www.netflix.com/jp/

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