実は社会派映画「バッド・ジーニアス」背景となったタイの汚職問題を考察してみた。(感想・ネタバレ)

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カンニングに捧げた青春という斬新なテーマでとっても面白かった!ミッションインポッシブル等のスパイ映画を参考につくったカンニングシーンはアクション映画のハラハラ感とクールさそのものだ。

本作はただの犯罪エンタテイメントではなく、その背景にあるのはタイ国内で常態化してしまった教育現場汚職への憤りと怒り。学歴至上主義の社会で、教師に賄賂を送り補習という名でテストの答えが書いてあるプリントを受け取る。汚いビジネスが蔓延していた。そうまでさせる社会への疑問符もまた、本作の重要なテーマだ。

主人公:貧しい父子家庭で暮す天才少女リンは、自力で学内トップの成績を収める秀才だ。そんな彼女がこの崩壊した教育に対して挑んだのが「カンニングビジネス」だった。バレずにカンニングさせる代わりに対価を得る。ただのお金欲しさではなくこの腐った社会背景があるからこそ、本作は輝いているのだ。

だが、”微笑みの国タイ”は本当に賄賂や汚職が常態化しているのだろうか?
現実のニュースを拾い実感を得ると共に、現在日本の教育現場に置き換えた場合はどうなのか?


社会問題について考える一助となればと思います。

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作品基本情報

監督・脚本
ナタウット・プーンピリヤ
脚本
ナタウット・プーンピリヤ
Tanida Hantaweewatana
Vasudhorn Piyaromna
製作会社
Jor Kwang Films
公開
2017年5月3日(タイ)
2018年9月22日(日本)
上映時間
130分
製作国
タイ
出演者
リン-チュティモン・ジョンジャルーンスックジン
バンク-チャーノン・サンティナトーンクン
パット-ティーラドン・スパパンピンヨー
グレース-イッサヤー・ホースワン

「あらすじ」
天才的な頭脳を持つ女子高生リン。裕福とは言えない父子家庭で育った彼女は、進学校に特待奨学生として転入を果たす。新しい学校で友人となったグレースを、リンはカンニングで救った。それを知ったグレースの彼氏・パットは、リンに“カンニングビジネス”をもちかける。多くの生徒を高得点に導いたリンは、人気が出て報酬も貯まっていく。しかし、学校が誇るもう一人の天才・生真面目なバンクとの出会いが、波乱の種に。そのビジネスの集大成として、アメリカの大学に留学するため世界各国で行われる大学統一入試「STIC」を舞台に、最後の、最大のトリックを仕掛けようとするが…。

タイにおける汚職はもはやあげつらうのも虚しい”常識”のレベル

[バンコクポスト]タイ、止まらぬ汚職 相次ぐ隠蔽、法も機能せず
アジア太平洋諸国の贈収賄ランキングでインド、ベトナムに次ぎワースト3位に入った。2015年7月から17年1月までアジア太平洋の16の国と地域の2万1800人に実施した調査報告書で明らかになった。(日経新聞より抜粋)

タイの汚職による経済損失は年間1000億バーツ!
汚職などの事件のエキスパートであるSungsidh Piriyarangsan氏が慎重に2018年の汚職による損害賠償額は500億バーツから1,000億バーツにのぼると明らかにしました。汚職はバンコクや地方の行政機関レベルや、国家公務員レベルで行われており、その腐敗は国家プロジェクトでも行われているそうです。(タイのニュースまとめ様より抜粋)

また、pwcによる世界経済犯罪調査では、2016年の企業に対する調査では国内企業の実に66%が不正が行われていると回答している。
PWC社による犯罪調査書より抜粋

教育機関のみに関するデータは見つける事が出来なかったが、映画.comのナタウット・プーンピリヤ監督インタビューによると
「現代のタイの教育システムの中では、子どもは勉強ができることが一番大事という価値観があります。両親も学校の先生も、勉強のできる子どもばかりに気をかけ、勉強のできない子は、その子なりに必死に親や先生に認められるようもがくように闘って頑張っています。-一方で、勉強のできない学生が一定数いるということに着目し、お金を稼ぐビジネスにしようと考えている学生たちがいることもリサーチで分かったのです」と話している(映画.comより抜粋)

(Transparency International, 略称: TI)による腐敗認識指数ランキング(180位中)では
タイ
2016年,124位
2017年,96位
(日本は2年とも20位)となっている。(参考資料:腐敗認識指数 国別ランキング・推移)

また国際的なビジネスが増えた背景もあり、2015年に腐敗防止法が改定され、下記内容が加わった。
❶贈賄罪・外国公務員贈賄罪(5年以下の懲役・10万バーツ以下の罰金)
❷収賄罪・外国公務員収賄罪(死刑・終身刑・5年以上20年以下の懲役・10万バーツ以上40万バーツ以下の罰金)
❸法人責任(両罰型、適切な内部措置を講じていないことが要件)=賄賂額の2倍以下の罰金
法制度が整ったが、モラルが定着するのはまだまだ先のよう。

日本における教育現場の汚職はあんがい少ない

では日本はどうかというと、定期的に汚職報道はニュースで流れているように感じるが、数値としては少ない。
2016年度の総務省による調査では

教育部門による汚職事件は16(対前年比6減) -全体の21%を占めている。
汚職事件は知能犯という犯罪ジャンルに当たる。
発生率は45,779件。(うち振込め詐欺が13000件超)

という事を考慮すると汚職は常態化しているとは言い難い。
定期的にニュースに挙がるのは、それだけ目立つからだ。
逆に振込め詐欺が毎日のニュースに流れて来ないのは件数が多過ぎて、流しても視聴者の感覚が麻痺してしまうからだろう。

ニュースにならない、日本のおかしな教育現場とは”全体主義”だ。

汚職や賄賂がタイのお国柄であれば、日本にある異常なお国柄とは何か?それは全体主義だろう。
全体主義、平等教育の異常さがニュースに上がる事はほとんどない。
それは汚職と違って犯罪ではないし、蔓延した日本の常識だからだ。

・平等教育の異常さを改めて見ると随所にある。
日本の教育方針は平等教育&全体主義であり、他の人たちと同じようにすることを教育される。

・制服だけではなく、靴、靴下も指定。
(基本的に靴、靴下モノトーンしかはいてはいけない学校も多い)
・不登校の生徒は、担任の先生が生徒の自宅に行き、「もう一度クラスに出て来い」と説得する。
(合わないなら他の勉強方法や、クラスを変える。という選択肢はない)
・クラス内の人間同士でトラブルが起こると、なぜか当の本人同士ではなくクラス内で話し合いが行われる。
・問題の解き方は授業で習ったものを使うことが奨励される。
(授業外で知った知識を使う事は注意の対象)

もちろん細かくあげれば、キリがないが、もっとも大きな問題となっているのはいじめと自殺だ。
若年層(15~39歳)までの死亡率は「自殺」がトップ。この割合は世界で日本が最も顕著だ。
そしてその原因のトップは、いじめとネット内いじめがトップ2である。
いじめの発生原因は、間違いなく閉鎖空間と全体主義にある。

日本版に置き換えたら『”読む必要ない空気”売ります。』だった

日本における伝統文化”空気を読む”こそ、閉鎖空間と全体主義の中で生まれた同調圧力である。
では、もし自分がクラスの中で”空気を読む必要がなく””全体の中でも浮かない”としたら、金を出してまでもその空間や時間を買うだろうか?
私はおそらく買う。一生懸命バイトして払うだろう。それほどに学校のクラスとは息苦しい空間だった。

どう作るのだろうか?という領域は完全に創作の範疇になってしまうが
例えば、個人情報のハッキングによってルール決定権や”空気”醸成を担っている人間を揺さぶる。
例えば、ルール決定権者や”空気”醸成者と新たな別契約を設けて、成約したら原因となるものを分解していく。
など。そうこうしているうちにハッキングと強請りがバレて追い詰められていく。
「それでも始めたきっかけは、不当な全体主義に挑む為だった。」日本版バッドジーニアス カミングスーン。
と作品化妄想はさておき、本当に考えるべき事は、
空気を読む必要はなぜないのか?論理の道筋を立てロジックで説き伏せる事だし、”読まなきゃいけない空気”構造的要因を排除して空気自体をつくらない事だろう。

構造的要因の排除という考え方ははるかぜちゃんに教えてもらいました。
「クラスをなくし、単位制にすればいい」-なぜ「いじめ」はなくならないのか?春名風花さんがたどり着いた結論

まとめ

カンニングクライムアクションとして本作を素直に楽しんだ後、ほんの一瞬立ち止まり考えてみた。タイの中で、声なき声で叫びつつも蔓延した腐敗に敗れてしまった誠実な人の事と、やはり声なき声で叫びつつ全体主義の呪いにかけられて心を挫いてしまった人達の事。後者はきっと私自身だし、大人になった今でも見えない檻は続いている。この問題に正しい答えはないのだけれどこうした社会問題を考えることは、映画の楽しさというには固すぎるかもしれないけれど、本作の価値の一つだと私は強く思うのだ。

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