大ヒット漫画「君たちはどう生きるか」感想・考察。コペル君の学びがそのまま僕らに繋がっている。

君たちはどう生きるか表紙
※演出、構成等に関してもネタバレあります。

本書は現在、大重版の話題書だ。なんと宮崎駿先生が監督でアニメ化も決まったらしい!すごい!!
ところでこの作品、新書ではありません。80年前に出版された児童書の体を取った人生指南書であり、自己啓発本である。言うなれば、「〇〇代にしておきたい〇〇の事」だの「なぜ〇〇は〇〇なのか?」だの「〇〇の技術」だのとジャンルとしては一緒である。
定期的に話題に上がっては平台に山積みされ、短い栄枯盛衰を経て消えていく。私は自己啓発本は得意ではない。十分な考証、実証のなされていない限定的な結果から取ってつけた(ように感じる)感情論や方法論にどうしても素直にうなづけないからだ。
と こんなめんどうな話は誰も興味がないことと思う。私が言いたいのは、本作は自己啓発本でありながら、自己啓発的な要素を微塵も感じさせないフォルムであり、売り方をしているという事だ。

私のようなエンタメ至上主義の人間にもリーチしている販売戦略は見事としか言いようがない。

さて私と同種の人間は、ここまで読んで「危ないところだった。高い金出して、またうっとおしい説教くらうところだった」と売り手の戦略に欺かれなかった事にホッと胸をなでおろすかもしれない。
だがまだ早い。本作は、紛れもなく自己啓発の人生指南書でありながらそのリーチははるかに広く、また中身ははるかに深遠だという事を私は言いたい。
そして「そう思わせるのは一体どういったところなのか」を語りたいのだ。

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基本情報

原作・原案
吉野源三郎『君たちはどう生きるか』1937年著
作画
羽賀翔一
出版社
マガジンハウス
発売年
2017年

あらすじ
旧制中学二年(15歳)の主人公であるコペル君こと本田潤一は平凡な学生である。父親は他界し、家には母とコペル君の二人暮らし。そんな生活の中に失業中の叔父さんが時々顔を出すようになる。コペル君は友人たちと学校生活を送るなかで、さまざまな出来事を経験し、観察する。その事柄を叔父さんに話し、叔父さんはその日聞いた話を、コペル君に書いたノートという体裁で多様な観点からまとめあげる。その内容は多岐に渡り「ものの見方」や「社会の構造」「関係性」といったテーマが語られる。

子供達にこそ読んでもらいたい一冊として描かれている

本書は80年前の原書も児童書として出版されている。だから、もちろんそのメッセージの説き方は、巷に溢れる自己啓発本のそれではなく、あくまで児童書のスタイルだ。言うなれば、大傑作サン=テクジュペリ「星の王子様」のそれに近い。パウロ・コエーリョ「アルケミストー夢を旅した少年」や、エーリヒ・ケストナーの「飛ぶ教室」などが類似作品として挙げられると思う。
本作は決してファンタジーではないが、子供達が日々の社会生活の中で気づき学び成長していく事。その一つの模範例を描いているのだ。その言葉は子供達に届くように、とても平易で、わかりやすく。その日の出来事は誰にも起こりうる(もしくは目に付く)日常的なエピソードばかりだ。

とても主体的な思想を促す読み物である

本作の主テーマは「気づく事」「自分で考える事」「誤魔化さない事」「誤りを素直に正す事」だろう。何度も何度も本書の中でおじさんはコペル君に”君自身が”という言葉を使い、コペル君に主体的である事の大切さを説く。人間の立派さがどこにあるか?自分の体験、何が君を感動させたのか?ある感動のその意味は?というような文面が多くある。コペル君のエピソードが主体的なのは漫画として当然だが、本作の文面自体もどこまでも主体性を最重視し、また促している。本作には多くの”生きる為に大切な事”が書かれてはいるが、ただ受け取る事は無価値な事なのだ。それゆえに大げさな描写も、捻じ曲がり、尖った台詞も価値観も出ては来ない。本作にあるのは、どこまでも「君自身がどう思い、どうあるか?」なのだ。漫画と人生指南書の形をとった自問自答集のようなものだ。作をまともに読もうと思うなら、ひとつひとつの項目に自分なりの人間らしさをおぼろげにでも形にする必要がある。最後まで読み通し、冒頭に戻り叔父さんからコペル君への手紙をもう一度読んだ時、その自分への伝わり方が随分と様変わりしていて驚くことだろう。

思っていたが言語化出来なかった”目から鱗(うろこ)”なセンテンスが必ず1つはある

本作の深遠さの一端だ。80年の時を洗練を受けなお読み継がれ現代に蘇るに至る作品には必ず、今を持ってしてもハッとさせられる発見があるものだ。本作の場合、その多くは”漠然と思っていた事を見える、伝える事が出来る形にしてくれた”ところだと思う。それは星の王子様が初めて「本当に大切な事は目に見えない」と改めてセリフで示したような描写だ。
本作においては人によって違うとは思うが、私は

「真実の経験について」という項目
”ある時、ある所で、君がある感動を受けたという、繰り返すことのないただ一度の経験の中に、その時だけにとどまらない意味のある事がわかってくる、それが、本当の君の思想というものだ”
「人の悩みと過ちと偉大さについて」の項目
”正しい道義に従って行動する能力を備えたものでなければ、自分の過ちを思って、つらい涙を流しはしないのだ”

がハッとした。(他にも2、3あったが長いので割愛します)
わかっていても言葉には出来なかった事や気づきもせず(そうだったのかー)と感心してしまう。そんな目から鱗センテンスのとても多い事こそ、本作が80年の時を超えるベストセラー足り得る部分のひとつだろう。

子供と大人の視線が交互に描かれている素晴らしい演出

これこそ老若男女に響く作品としての一番の持ち味!コペル君がまず身をもって実感し、感じた事、思った事を描き、そこに叔父さんが背景や歴史、学問を紐解き、その感じた事の意味を大人の目線で語る。これが交互に繰り返される事で、ひとつひとつの取るに足らないエピソードに瑞々しさと奥底まで紐解く深遠さが生まれるのだ。そして何より、コペル君の人間としての成長がきちんと作中で描かれている。人間とは何か?を説きながら、言葉だけに終始していないところこそ、私は本作のヒットの要因と声を大にして言いたい。さらに、漫画オリジナルの展開として、本作は希望を胸に抱き外へ駆けるコペル君の姿で漫画としては幕を閉じる。絵をつけた意義を感じる素晴らしいオリジナル付与だと思う。

現代に受けたのは、ラスト一文に込められた本作のメッセージ

「そこで、最後に、皆さんにおたずねしたいと思います。君たちはどう生きるか?」

子供達が主人公だから、一見ライト風に装ってはいるが対抗馬的には論語や葉隠クラスのゴリゴリの思想書であり、一種の教典でもある。それでも本作が現代にマッチした理由はおそらく共感だけでも、優れた演出や表現だけでもなく、この最終的に答えを出さずに投げかけている事だと思う。多様な生き方を問われる現代において”人間らしさ”という本質ではなく、因習や文化、世代などで評価されカテゴライズされることに疲れた人々は、ただ投げかけるに終わる本書にあるいは救いや励みを感じたのかもしれない。

まとめ

ヒットの理由が気になって自分なりな考察も書いてしまいましたが、そういうイロ物作品では全然なく、中で描かれている思想や言葉は間違いなく心に刻みつけておくべき言葉達です。大人になり実感した事のある話なら思わずうなづく教訓や意味も数多くある。コペル君の成長はまごう事なき、少年が「一人の真っ当な人間」として成長していく姿そのものだし、とても洗練された指南書だと思います。ただあまりにもリアルに寄っていてフィクションらしきものが皆無なのでそこらへんだけは読む人と時期は選ぶ作品だと思います。宮崎駿監督はどう描くのか?今から楽しみです。





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