映画「男はつらいよ お帰り寅さん」感想・考察/帰ってきたのは誰

「男はつらいよ」シリーズ50周年を記念し制作された22年ぶりの特別公開作品。
渥美清不在の新作ながら意欲作だ。過去49作分のノスタルジーと、渥美清による寅さんとの本当を別れ、そして寅次郎の旅の終わりを描いている。

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基本情報

監督・原作:
山田洋次
脚本:
山田洋次・朝原雄三
プロデューサー:
深澤宏
撮影:
近森眞史
照明:
土山正人
録音:
岸田和美
美術監修:
出川三男
美術:
倉田智子・吉澤祥子
編集:
石井巌・石島一秀
音楽:
山本直純・山本純ノ介
主題歌:
渥美清
オープニング:
桑田佳祐
出演:
車寅次郎-渥美清
諏訪さくら-倍賞千恵子
諏訪博-前田吟
諏訪満男-吉岡秀隆
イズミ・ブルーナ(及川泉)-後藤久美子
原礼子-夏木マリ
リリー-浅丘ルリ子
高野節子-池脇千鶴
諏訪ユリ-桜田ひより
朱美-美保純
源公-佐藤蛾次郎
三平-北山雅康

[あらすじ]
小説家の満男(吉岡秀隆)は、中学三年生の娘と二人暮らし。最新著書の評判は良いが、次回作の執筆にはいまいち乗り気になれないモヤモヤした日々を過ごし、なぜか夢の中に、初恋の人イズミ(後藤久美子)が現れて悩みだす始末。そんな時、妻の七回忌の法要で柴又の実家を訪れた満男は、毋さくら(倍賞千恵子)、父の博(前田吟)たちと昔話に花を咲かす。いつも自分の味方でいてくれた伯父・寅次郎(渥美清)との、騒々しくも楽しかった日々を想い出す。そんなある日、書店で新作のサイン会を行う満男の前に、初恋の相手イズミが突然姿を現す。満男とイズミは何日か行動を共にすることに。

松竹映画『男はつらいよ』シリーズは、山田洋次原作・脚本・監督(一部作品除く)・渥美清主演で1969年に第1作が公開され、以後1995年までの26年間に全48作品が公開された国民的人気シリーズです。

※ネタバレ有

ノスタルジーと決別を同時に描いた稀有なラストシーン

本作の素晴らしい点は、観客からのノスタルジックな要求にこたえつつも、最後は寅さんに対して「おかえり」と「さよなら」を同時に告げているところだろう。
「男はつらいよ」は、いくつかの例外を除き、”寅さんが葛飾柴又に帰ってきて、また出て行く”話だ。だが本作は、”満男がイズミと出て行って、戻ってくる”話なのだ。ラストは「寅さんがくるまやに帰って来た」という一文を添えて締めくくられている。この構図とこの一文が意味するのは、明確な旅の終わりだ。

寅さんにとって、くるまやは肉体的な意味で、港であり腰を落ち着ける場所ではない。対して精神的な意味では、どこにいても変わらぬ故郷だった。むしろ、寅さんがくるまやにいる時間とは、自分以外で築きあげられた”くるまや”を寅さんに見せつけるパートであり、くるまやの日常を壊す存在としての寅さんという側面がある。本作でも回想として登場する「メロン騒動」を例とする”勘定に入れ忘れた寅さん”というネタは過去シリーズで何度も登場する。実は、寅さんがくるまやの一員であるのは、実際にそこに居続けない事が大きな要因だった。「男はつらいよ」とはそんな物語ではなかっただろうか。

そして渥美清が亡くなったことによって、寅さんというキャラクターもまた永遠に不在となった。この事実を使いメタフィクション的な構図で、本作では「帰って来た」という単語を持ち出している。本シリーズで永遠の不在とは、帰郷と同意義なのだ。

この事実と「お帰り、寅さん」というタイトル、ラストの一文に力を持たせるため、さらに満男の思い出と体を借りて”満男が出て行って、戻ってくる”という帰郷を明確にするエピソードにしている。

満男の娘ユリのいるマンションこそ「おかえり」と「さよなら」の場所

本作の大きな特徴の一つは、二十数年後の現代で、満男がイズミとは別の女性と結婚、死別しており、ユリ(桜田ひより)という娘と暮らしている点だ。
本シリーズは、ヒロイン以外で新キャラが出てくることはほぼない。身内に関しては寅次郎の母、菊(ミヤコ蝶々)と博の父、飈一郎(志村喬)だけである。そんなシリーズの中で登場するユリは、大きな役割を担っている。何より大きいのは満男の日常としての存在だ。
オープニングとエンディングでそれぞれ登場するこのマンションは、過去シリーズにない新たな要素であり、寅さんを実際に知らないユリは、寅さんのいない世界への水先案内人だ。ラストでユリが満男へ「お帰りなさい」と告げるのは満男の帰宅とともに、寅さんとの明確な別れの言葉になっている。そして、満男が日常に着地するとき寅さんの不在は永遠となり、同時に寅さんは帰郷を果たすのだ。

違和感のある演出は寅さん不在のサイン

ほかにも本作は多くの過去作にない要素が含まれている。
桑田佳祐のオープニングから始まり、あの頃のくるまやと同じセットや構図を描きながら、画面中央には高齢者用に後付けされた金色の補助バーが付いている。明らかに違和感があるこれらの演出は、いずれも寅さんの不在を強く感じさせる。
そして、ラストはニューシネマパラダイスを大胆にオマージュした過去のヒロイン百連発だ。
ニューシネマパラダイスは、アルフレードの葬儀のために帰還するトトの物語である。この作品そのものがニューシネマパラダイスのラストシーンでもあるかのように満男の目線で「寅さん」を語る方式を用いて回送を繋いだ作品となっているのは、渥美清への追悼の意を表すとともに、寅さんからのあらゆるメッセージを満男のプロローグを通して観客が受け取るという意味もあったのではないだろうか。
50年周記念というファンムービーとしての目配せもあっただろうが、懐かしくも切ない演出にしてくれたのがいかにも寅さんらしいと私には思えた。

まとめ

リメイクファンムービーなのに、とても革新的な作品。50本一貫して監督し続けてきた山田洋次が本作もメガホンを取った事が、ここまで斬新にできた最大要因だろう。
ファンムービーとしても観れるし、シリーズの新しい作品としても見ごたえのある一本なので「男はつらいよ」好きはぜひ、チェックしてほしい。

記念すべき第1作。

本作と呼応するシーンが多数あるノスタルジックロマンスの傑作。

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