「フィリップ・K・ディックのエレクトリックドリームズ」全話SF的考察。未来の人間は進化したのか

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感想第二弾です。こちらは中身編です。全話分の考察感想しちゃうよ。
SFの醍醐味は、こうなっちゃうかもしれないねを突きつけられる事より、そうなったら自分はどう思うだろう、どうするだろう?を膨らませる楽しさにあると個人的には思う。なので、観た後に膨らんだ疑問の方にスポットを当てて感想を書きました。
SF好き、映画好きはきっと思考が捗るレビューです。

※七話は完全ネタバレあります。amazonでのあらすじも同様です。ご注意ください

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第一話.「真生活(Real Life)」

真生活画像
「疑似体験で二つの人格を与えられた時、人の自意識は何を私と認識するのだろうか?」

【あらすじ】
近未来で美人女性警官のサラ。「仮想世界へトリップできるVR装置」で、2010年の過去に生きた黒人の男性富裕実業家ジョージとしての人生を体験する事になる。そしてジョージもまた自身が開発した「VR装置」でサラとして生きる世界を体験する。2つの世界を行き来するうちに、サラとジョージはどちらが本当の世界なのか分からなくなり“自分”を見失っていく。果たして本当の世界とは?

[感想]
記憶も知覚も感覚も完全に機能した疑似体験空間は、第二の自分に他ならない。本作の面白いところは、別記憶を持ったもう一つの人格として疑似体験出来る点だ。一人称の対象は完全に二人いる。だが、その自意識は当然、一人分で自分を保っている。何度も世界を行き来する事で、記憶が持つ曖昧さと記憶と自意識の結びつきがいかに強固であるかを丁寧に物語っている。一昨日食べたアジの干物が実は疑似人格の時に食べたものだと説明されてどう否定できるというのだろうか。頼るものが自意識だけになった時、人の自意識は何に頼るのか?その驚きと説得力にとても深い満足感を得た作品でした。

原作:
展示品

第二話.「自動工場(Autofac)」

自動工場
「遥かな未来。人間と機械の違いは、どうしてこの世に存在しているのか?を知ってるかどうかの違いしかない」

【あらすじ】
核戦争の20年後、地球全土は荒廃した。そんな地球でエミリーはわずかな生存者コミュニティの中で暮らしている。彼女の最大のミッションは、戦争前に作られた完全自動化の巨大工場を停止させること。工場は客や管理者が居なくなった今でも少ない資源を浪費し、環境汚染を繰り返し、大量生産と消費活動を続けていた。侵入不可能、完全なセキュリティで防御されている施設に入り込む為カスタマーケアにコンタクトを取り、顧客対応ヒューマノイド、アリスを呼びだす事に成功するのだが…。

[感想]
本作で思い知らされたのは、仮に自立思考型AI「ヒューマノイド」がブレイクスルー(AI自身が人間よりも高度な知能と能力を持つAIを作り出せるようになること)を果たしたとしたら来るかもしれない未来だ。AIはその時人間を根絶やしにするだろうか?使役し奴隷のように調教するだろうか?本作が提示したのはそのどれでもない。自身の存在理由「なぜ生まれて来たのか?」に回答し続ける事だった。つまり生産し続ける事だ。人間はそのコマンドが不明のまま生まれてくる。本作が問うのはその差異だ。それは傍目には平行線に見える。だが、ブレイクスルーした先で”人間がなぜ生きているのか?”に対する原初のコマンドを機械側は解明しているとしたら?AI達はその時どうするのだろうか。こちらも説得力のあるラストに唸ります。さらにもう一度観たくなる、ラストの伏線回収が気持ち良い。エンタメとしては十話中一番完成されている一本。
それにしても、完全自動化を目指すamazon primeオリジナルで本作が配信されるというユーモアよ!

原作:
自動工場

第三話.「人間らしさ(Human Is)

人間らしさ
「人類は自らの過ちで滅びゆく定めなのか?生き残る為の希望の光の見よ」

【あらすじ】
未来。大気汚染、水不足のひどい地球。地球救済のための部隊で働くサイラス・へリック大佐と妻のヴェラ。ヴェラは冷徹で高圧的な夫サイラスとの愛のない結婚生活に耐える日々だった。そんなある日、水確保のため、サイラスを含む部隊がレクサー4星に出向く。一行は現地でレクサー人に襲われ全滅したかに思われた。しかしサイラスともう一人の部下だけが命からがら地球に帰還する。レクサー4星から無事に帰還した夫サイラスは以前とは打って変わって急に優しく人間らしくなり、戸惑う妻のヴェラ。戸惑いながらも態度の変わった夫を愛し始めるのだが…

[感想]
荒廃した水不足の地球に住む未来の人間達。そして野蛮で凶暴だと地球人が認識しているレクサー人。これらは、いずれも現代の私達の生き方そのものだろう。荒廃した地球の未来像しか描けないのはなぜなのか?宇宙人と戦う話が生まれるのはなぜか?それが私達の心を反映しているからに他ならない。本作は、その末期に宇宙人とのコンタクトを通じて一つの光を投じた。戦う事でも奪う事でもない方法で開ける活路もあるのではないか?他者を重んじない自己中心的で高圧的なサイラスは死に、人を襲うレクサー人も死んだ。最後に生き残った人間ヴェラとレクサー人サイラスの中にあったのものはなんだったのか?人々が彼らを庇護し生存を許した理由は一体なんだったのか?この作品には、自ら滅びの道へひた走る人間だが、最後の最後にきっとこのやり方に気づき試すだろう。というほのかなアイロニーと、その時生まれる希望に淡い夢が込められている。と私には思えた。いずれにせよ、本作こそ、フィリップ・K・ディックの命題の回答。そしてこのシリーズの表題作的位置づけである事は間違いない。

原作:
人間らしさ

第四話.「クレイジー・ダイアモンド(Crazy Diamond)」

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「経済の為に、消費し続けるだけに成り下がった人間は真実を手に入れられるのか?」

【あらすじ】
海岸浸食によって次第に陸地が減少し、妻のサリーと共に暮らすエド・モリスの海岸沿いの家も危機を迎えようとしている。しかしエドは船で航海に出ることを夢見ている。エドはジャック(男)とジル(女)と呼ばれる人工アンドロイド及びQCと呼ばれる量子意識を生み出す会社で働いている。エドはそこのQC管理部門勤務だ。QCを注入されることでアンドロイドは人間らしく行動する事ができる。ある日エドは1人の美しいジル(女性型アンドロイド)と出逢う。彼女は自分の寿命を延ばすために新しいQCを盗み出す手伝いをエドに持ちかける。

[感想]
先に言っておくと本作は、SFらしい作品であってSf考証すると詰まる箇所が多過ぎる。なので、ヒューマンドラマとして観るがおすすめだ。消費活動だけをし続けただ浸食されていく日々とはどんなものだろうか。おそらくそこに生きがいなどはもはやないのではないか?”生きる”とはなんだったのか?それを思い出させるのが人工アンドロイド、ジル。そんな皮肉が本作のメインテーマだ。人が失ってしまったものを手に入れようともがくジルの姿はエドにはどこまでも眩しく映る。生きるとは?に対して渇望と熱量と信頼というそれぞれの立ち位置から見せてくれる作品だが、最後、真実を行なった者だけに微笑む女神がどうしようもなく皮肉な気持ちを沸き起こさせる。

原作:
CM地獄

第五話.「フード・メイカー(The Hood Maker)」

フード・メイカー
「思念を読まれる事であぶり出されるのは人間の凶暴性か、それとも信愛か」

【あらすじ】
人々は、思考を読むことが出来る能力者たち、通称ティープを恐れ忌み嫌っていた。しかし自由連合政府はティープを利用して民衆の心を読み取り監視をしている。しかしそんな折に「フードメーカー」を名乗る人物がティープによる読心術を防御するフード(防御マスク)を開発し政府やティープに対抗するためにフードを民衆に配り始める。操作に駆り出されたのは普通の人間であるロス捜査官とティープの女性オナー。2人はパートナーとして事件を追う中で徐々に親密になっていくが…

[感想]
人は自分の思考が読まれる相手に対して、どう思い、振る舞うのだろうか?また、もし思考が読めたら?その一つの回答が本作である。凶暴性を帯びた無能力者に対して、一人だけ心が読めない男が穏やかさや寛容さを維持しているのはとても興味深い。人は全てをさらけ出し、お互いを認める事など出来ない。本作に出てくる社会はそう結論づけているのに対して、対個人のラブストーリーとしては、真逆の顔を見せる。隠しているが為に信頼にほころびが生まれる。この相反する皮肉こそ本作に込められたメッセージだ。主人公達は、いや、あなたはどちらを選ぶのか?隠している人を認めるのか否か。全てをさらけ出すのか否か。そこに込められた真実を問われる作品だ。

原作:
フードメイカー

第六話 「安全第一(Safe and Sound)」

安全第一
「個人管理されるリスクとデザインされた安心。あなたならどちらを取る?」

【あらすじ】
徹底的に監視・管理された安全な街に、母親と共に引っ越してきた少女フォスター。
周りに溶け込みたい一心で、母親には内緒でみんなが持っている”デックス”と呼ばれる個人情報のモニタリング装置を手に入れる。
それでも学校に馴染めないフォスターだったが、デックスの顧客サポートと交流を深めていくうちに…というお話。

[感想]
完璧に個人管理された社会に起こりうるリスクを箇条書きしたかのような作品。管理する事が出来ない要素をいかに扱うかが本作の面白い点だ。管理されている側が口々に呟く「安全」とは何を排除して生まれたものなのだろうか?フォスターが手にしたかったものは実は安全ではなく”安心”だ。その為に管理社会の皆に溶け込もうと次々に変化していく。その中であぶり出されるのはその為の代償、捨てていったもの達だ。フォスターは一体何を捨て、代わりにどんな安心・安全を手にしたのか?人々が管理社会に向かっていく心理の流れを追いかけるお話。

原作:
フォスター、お前はもう死んでるぞ

第七話 「父さんに似たもの(The Father Thing)」

父さんに似たもの
「侵略してきた宇宙人は変身できる奴らだった!?」

【あらすじ】
野球少年チャーリーは、優しい父親が大好き。キャンプに行った2人は、大量の流星群が降り注ぐ光景を目撃する。その夜を境に父親はまるで異星人に乗っ取られたかのような奇行を見せるように。外見はまるっきり父親と同じだが…

[感想]
このお話はですね。。。もう頭空っぽにしてみてください。「人間らしさ」の後にこれやるの?って感じなんですけど。やっぱり優しいお父さんでもね、中身が違ければダメなんすよ。もうぶっ殺すしかないんです。子供達がね、地球を守れるのは、僕達しかいない!と活躍するSF異星人活劇アクション。

原作:
父さんもどき

第八話 「ありえざる星(Impossible Planet)」

ありえざる星
「輪廻した魂は、ほころんだ時何を一番優先するのだろうか?」

【あらすじ】
地球は消滅し、人類は他の星々で暮らしている未来の話。宇宙旅行代理店を経営する2人の男、ノートンとアンドリュースのもとに余命いく爆かの342歳の老女イルマと介助ロボットが訪れる。イルマは自分を地球に連れて行って欲しいと頼む。2人は大金欲しさに別の星を地球だと偽り仕事を引き受ける。イルマは祖父母から聞かされた地球の美しい川で泳いだ話が忘れられず、自分もそこに行きたいのだとノートンに語る。ノートンも彼女の話を聞くうちに不思議な縁を感じ始めるのだが…。

[感想]
ノスタルジーとは、それは魂が持っている古い記憶が呼び起こされる現象なのかもしれない。遠い未来で、過去の私の魂が愛した人をまた愛する瞬間が来る。それはどう考えてみてもおかしな事だが、美しい事だと思う。自分が自分でない感覚、その正体の一つに時を超えた輪廻の旅がある。消滅してしまった星に向かっていく旅の中で、徐々に蘇っていく魂の記憶はとてもロマンチックだ。だが、それは同時に自分の魂を誰かに乗っ取られる行為のようでならない。人の魂が輪廻を繰り返しているのなら、人はその記憶が立ち上がった時何に身を任せるのだろう?

原作:
ありえざる星

第九話 「地図にない町(The Commuter)」

地図にない街
「完全なる幸福世界に辿りついた時、人は初めて何を失ったかに気づく」

【あらすじ】
駅員として働くエドの前に、メイコン・ハイツまでの切符を買いたいという女性客リンダが現れる。
しかしメイコン・ハイツという駅は路線図には存在せず、そのことを問いただすとリンダは目の前からふっと消えてしまう。
不思議に思ったエドが実際に電車に乗り辿り着いた町、メイコンハイツはまるで絵に描いたような完全なる幸福が実現された世界だった。
だが現実世界に戻ったエドは、現実の世界とは別の世界になっていることに気づく。

[感想]
人生は曇り時々雨ときどき晴れ。だが、ずっと晴れている人生がこの世のどこかにはあるのかもしれない。幸せの国。自分にとっての完全に満たされた世界を自分というバスケットを小さくすることで成す世界というユニークな作品。前の大きなバスケットの中にあった”どんなもの”もなかったことにする。それも一つの幸せの形だと本作は提示する。だが、前のバスケット内にあったものを知っている人間は探し求めずにはいられない。私には、自分で捨てて、自分で拾いあげる事が出来るのが人生の醍醐味なんだと言っているように見えた。

原作:
地図にない町

第十話 「よそ者を殺せ(Kill All Others)」

よそ者を殺せ
「疑問を消滅させた世界が放つ唯一絶対の呪文」

【あらすじ】
2054年、一党独裁制となったアメリカが舞台。唯一の候補者がした「よそ者を殺せ」という発言に疑問を抱いたフィルバート。しかしニュースでもネットでもそのことを取り上げている人は1人もいない。「KILL ALL OTHERS」の広告看板に吊るされた死体を見ても、フィルバート以外の人は全く気に留める様子がないが…というお話。

[感想]
”疑問”が持つ思考の多様性を排除した全体主義世界のお話。疑念を抱くことそもそもが悪という世界は過去日本人は戦争の中で実感している。
それがSFとして未来に展開されるのは愚かな人間の習性のようで哀しい。完全自動化した三本の工場製造ラインがその浅薄さを物語っている。
自動化の果てにあるもの、疑問と対立を無くした世界が行き着くもの、それらを本作は激しい警鐘と共に描いている。

原作:
吊るされたよそ者

まとめ

個人的に好きなのは、第一話:真生活。第二話:自動工場と第三話:人間らしさ。サプライズがあったし思考がはかどる内容でした。逆に四話と五話と七話はSF的な方向にはあまり向かわなかった構成です。いろんな切り口の作品が観れるという点では良いシリーズだと思います。しかし未来がもれなくディストピア寄りなのは本当に哀しいね。もうちょっと明るい未来はないのかね。

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