popcorn映画「ドン・ハーツフェルト 作品集”明日の世界”」上映会感想(ネタバレ無)

明日の世界ポスター

本作、アカデミー賞短編アニメーションノミネートはいかほどのものか気になっている方もいる事でしょう。
2000「二人の岸辺」

2008「つみきのいえ」

2012「かみひこうき」

等、印象に残って離れない素晴らしいアニメーションが生まれている短編アニメーション賞。期待も高まっているはず。かくいう私がそうでした。
だが、どんな人向けの、どんな気分の時に観る、どんな観後感を与えてくれる作品なんだろうか?

その疑問を実際に上映しましたので、来場頂きました生口コミ情報と共にご案内させて頂きます。

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基本情報

「なんて素晴らしい日」
(きっと全て大丈夫)(あなたは私の誇り)(なんて素敵な日)三部作。
監督・脚本・プロデューサー・撮影・キャスト:
ドン・ハーツフェルト
制作:
ビターフィルム
制作年:
2006年/2008年/2012年
制作国:
アメリカ
評価:
rottentomato 批評家8.7/10、観客4.5/5
Metacriticで90/100のスコア。
英time Out Londonの2013年ベスト10映画のリストで第3位.
2016年The Film Stageの批評家は、「21世紀の最優秀アニメ映画」のリストの中で第一位にリストイン。

『なんて素敵な日』(2012年、62分、※長編特別編集版、デジタルリマスター)はハーツフェルトが2006年より発表した短編三部作『きっと全て大丈夫』(2006年、17分)、『あなたは私の誇り』(2008年、22分)、『なんて素敵な日』(2012年、23分)を一本の長編として再編集しなおしたもので、このバージョンは、Time Out New Yorkの「史上最高のアニメーション」第16位にランクインするなど、アニメーション史に残る作品として、世界中にハーツフェルトの名前を轟かせることとなった。

「明日の世界」
監督・脚本・プロデューサー・撮影:
ドン・ハーツフェルト
キャスト:
Julia Pott、 Winona Mae、 サラ・クーシュマン
制作:
ビターフィルム
制作年:
2015年
制作国:
アメリカ
評価:
アカデミー賞短編アニメーション部門ノミネート
サンダンス映画祭短編部門審査員大賞
アヌシー国際アニメーション映画祭審査員特別賞&観客賞ほか、41の賞を受賞。

あらすじ「なんて素晴らしい日」
どこにでもいる中年のビルの日常が、ふとした瞬間から少しずつ歪んでいく。彼を蝕む病魔は、ビルに対し、彼の人生、家族との関係、未来の姿について考えさせる。
あらすじ「明日の世界」
少女エミリーはある日遠い未来からの交信を受ける。同じくエミリーと名乗るその女性は、彼女のクローンなのだという。未来のエミリーは、少女エミリーを、彼女の暮らす未来の世界へと連れていく。そこで待ち受けていたのは、「死」が消えて、永遠に生きることを余儀なくされた人々の、ボンヤリとして切ない人生の物語だった。
アカデミー賞短編アニメーション部門ノミネート、サンダンス映画祭短編部門グランプリほか世界中で受賞を続ける最新作『明日の世界』と、『きっと全て大丈夫』三部作待望のリバイバル上映のコラボレーション。5月、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開

実際に上映会で観た皆さんからの感想

○テーマ性に生と死を強く感じた、日常とは意味がないような毎日だが、それこそが意味があって、永遠なのではないかと本作を観て感じた。ー(男性)

○難解で哲学的。生と死、生きるという事について多くを感じる作品だった。
視点がとても大きく広く見えるところが印象深かった。首だけが宇宙まで伸びていくアニメーションなど。ー(男性)

○難しい内容だった。意味がよく分からず、これは何だろうと思っているうちに終わってしまった。-(女性)

○実写とアニメが織り混ざって、挑戦的な絵作りがとても面白かった。好きなテイストだった。脈絡なく、犬が画面をなめるシーンなど、意図してる範疇の外側から急に飛び込んでくる作為か無作為か分からない描写や演出がとても面白かった。
ー(女性)

どんな人向けなのか?キーワードは、生と死、暗闇、うつ病、哲学、時間軸と無限、意識と無意識、現実とアニメーションの交錯、大人の絵本

まずは観念的なテーマから、どんな人に向いているか語ろう。

「生と死」は間違いなく本作の重要なテーマの一つだ。
「なんて素晴らしい日」三部作において、死は病気の果てのものとして描かれている。
対して、「明日の世界」では肉体的な死を超越し、記憶の喪失として描かれる。
いずれも奥行きと深さのあるテーマだが、本作の「病気」とは肉体的なものではなく全て精神的なものだ。
この「病気」は悪化していっても「死」が延長線上には存在しない。だが確実に「死」が健康な時よりも近づいた事を観客に悟らせる。
これはつまり、社会的な”死”という意味合いだ。社会的な「死」を”ビル”という一人の善良な、普通の、人間を通して描いている。
そして、この社会的”死”を見つめる中に生がある。
これは、難病ものにとって欠かせないテーマ「死期を意識する事で、生き方を見つめる」というものだが、本作の面白いところは「生き方」ではなく「生」そのものを見つめている事だ。
「人間の生」とは何か?
という問いに対して、時間的、精神的な見地から見出そうと試みている。
その試みの一つが、過去と現在・現実と無意識を象徴するカットが1スクリーンの中に織り交ぜられた構成だ。

一つのファインダーの中に、星空のように過去と現在のシーンが何点も浮かび上がる。
星は既に消滅してしまった物体の光と、まだ現存する星の光を同じように、眼前に届ける。
そこには時間の不思議な法則が存在する。
それと同じ効果を産むため、本作ではしばしば過去と現在、現実と無意識が交錯し一つの混濁した1ショットを作り出す。

この1ショットの中で「時間は同時発生的であり、たまたま私達は一方向に向かっているのを意識しているだけ」という理論を裏付けるための描写が繰り広げられているのだ。
ドン監督もまたインタビューの中でこうした理論・観念を意識したと話している。

要するに「人間の生」とは「今この瞬間」なのだ。
という非常にシンプルな答えに行き着く。
「今この瞬間」の積み重ね(この時の積み重ねは、過去からの一方向ではなく多方向からの積み重ねという意味で、ある)が「生」なのである。
と同時に、超意識的な事柄を理論的、哲学的に描こうという意図も本作にはあるのではないかと思う。

意識について、監督はインタビューの中でこう話している。

”自分の人生をきちんとコントロールできている人間はあまり多いとは思えないな。遺伝や病気、偶然みたいなー要素があるから。
それに、多くの人は、自分で自分をコントロールすることを望んでさえいないと思う。自分の持っているものに満足して、自分の人生をきちんと讃えることができている人はとても少ないと思うよ。
<土居伸彰。ドンハーツフェルトインタビューより抜粋>”

こういったテーマに興味を持っている方に、とって本作は最適と言える。

また、芸術表現的な見地から見ると、より感覚的になるので予告編にピンと来るようであれば良いのではないかと感じる。

上映後の感想シェア会の中で出た言葉を借りると

「とてもチャレンジングで、制限を受けていない表現方法」

である。

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「あなたは私の誇り」より

時間軸も一方向ではなく、アニメーションであるがその背景は時にモノクロ、時に水彩画タッチ、時に実写である。
音響、BGMについても一作品に対して一つのテーマ曲を設けてはいない。
その一シーン毎にマッチした音響とBGMが鳴って一体の映像作品となっている。

どんな気分の時に観るのが良いか?観念的な世界や感覚的な世界に目を向けたい時、現実的な世界に疑問を感じない時

最も見て欲しいと思うのは、「今現在の生活に疑問を感じない時」だ。
そこには、おそらく世界に感動する感覚、社会に対する違和感やそれらに抱く不思議さが欠落してしまっている。

そういった感覚を呼び覚まし「目覚めさせる」のが、本作の大きな目的の一つなのだ。とインタビューで監督自身も述べている。

ただし、「なんて素晴らしい日三部作」は精神的な病気を大きなテーマの一つにしている。特に「うつ病」「統合失調症」に対する描写は非常に明確で、敏感な状態で観る事はとても精神に負荷をかけるものだ。その点だけは注意して欲しい。

どんな観後感を与えてくれるのか?まずは難解さ、続いて深淵さと新しい生に対する視点の獲得。そしておかしさと表現の可能性を与えてくれます

ナレーションによる単純な行動の説明。短いセンテンスによる台詞など、非常に濃縮された構成であり、台詞でもナレーションでも説明せず、作品全てをもって複数のテーマに対する答えを提示するという離れ業を達成している作品です。
その為、観後すぐに何かを見出す事が私には出来ませんでした。非常に難解で言葉を交わしていく内、意見を吸収していくうちに色々な意味について考えが追いついてきた作品だ。

こうして文字に起こしてみて、非常に多くの視点や観点、表現の面白さ、アイロニーを得る事が出来た。

もしこれを読んでくれている方は、先に読んでいたら後にもう一度読んでみて欲しい。少しづつ自分が本作から得た事が意識上に上って来るのを知覚する事が出来ると思う。

まとめ

出来る限り簡潔にまとめようと心がけたが、一部意識できない理論や観念を、映像表現に落とし込んで表現してしまっている為どうしても難解になってしまうと気づいた。”考えるな。感じろ”ではなく本作の良さは”感じろ。そして考えろ”なのだと思う。それこそ、現代の最前線の表現なのかもしれない。なんにせよ、次作もとても楽しみな才気あふれる監督のキレ味のある作品でした。

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