映画「女神の見えざる手」の脚本はいかに素晴らしいか

※ネタバレ致します。ご注意ください。
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女神の見えざる手公開ポスター

作品基本情報

監督
ジョン・マッデン
脚本
ジョナサン・ペレラ
製作
ベン・ブラウニング
クリス・サイキエル
アリエル・ゼトゥン
製作総指揮
パトリック・チュー
ジョナサン・ヴァンガー
クロード・レジャー
出演者
ジェシカ・チャステイン
マーク・ストロング
ググ・バサ=ロー
アリソン・ピル
音楽
マックス・リヒター
撮影
セバスチャン・ブレンコー
編集
アレクサンダー・バーナー
製作会社
ヨーロッパ・コープ
Canal+
Ciné+
フランス・テレビジョン
アーチェリー・フィルムズ
フランス2・シネマ
フィルムネイション・エンターテインメント
配給
エウロパ・コープ・キノフィルムズ(米・仏・日)
公開
2016年11月25日(米限定公開)
2016年12月9日(米拡大公開)
2017年3月8日(仏)
2017年10月20日(日)
上映時間
132分
製作国
アメリカ合衆国
フランス
言語
英語
製作費
1800万ドル
興行収入
$3,500,605
ノミネート・賞
「第74回ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門女優賞ノミネート」
ジェシカ・チャステイン(エリザベス・スローン役)
「2015年の“ブラックリスト”(映画化されていない優れた脚本)」

あらすじ

政府を裏で動かす戦略のプロ“ロビイスト”「企業などから依頼を受け、政治家に働きかけ、法律などを実現する人」その天才的な戦略でロビー活動を仕掛けるエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、大手ロビー会社で花形ロビイストとして辣腕をふるう日々。そんなある日、拳銃業界から銃の所持に有利なロビー活動の依頼を受けるスローン。だがそれを断り、銃規制派の小さな会社に移籍する。全米500万人もの銃愛好家、そして莫大な財力を誇る拳銃業界、政治家、元の会社などからなる敵陣営と対立するスローン。大胆なアイデアと決断力で、難しいと思われた仕事に勝利の兆しが見えてきた矢先、エリザベス・スローンの強引でイリーガルなやり口が物議を呼び聴問会が開かれる事に。さらに予想外の事件が事態を悪化させていく……。アメリカで社会問題化する、ロビー活動と銃規制がテーマの社会派サスペンススリラードラマ。

この脚本は、素晴らしい!こんな気合の入った作品は久しぶり。
昨年では、ボストンの記者達の熱い仕事魂を描く「スポットライト世紀のスクープ」もかなり気合入ってましたが、あれは実話でした。ゆえに世界に伝えねばという熱いメッセージをビシバシ受け取りましたが、こちらはフィクションの為、さらにサスペンススリラーとしても一流の上に、多くのメッセージをゴリゴリ発している。キレキレの逸品です!


ではこの脚本は何がとっても素晴らしいのか、私も気合いを入れて分析考察してみたいと思います。

ミス・スローンのキャラクターの素晴らしさ その①、強烈さ

脚本の良し悪しを一言で語ろうなどおこがましいですが、1つにキャラクターの良さがあります。
強烈だなあ。と思うと共に、気持ちを理解することが出来る。だけど近くにいたら実際は嫌だし、こんな人物を目指したいとは思わないけれど憧れる、かっこいい部分が多々存在する。
そんなキャラクターだとしたらそれはもうとんでもなく素晴らしいキャラクターです。
そして、本作の主人公エリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)です。

彼女は眠気には興奮剤で覚醒。食事は夜、外食の中華のみ。寝食を削り働き続けるワーキングモンスターです。
自身のロビー活動で勝利する事こそが生きる意味、存在意義であり、それ以外は全て手段であり駒。
勝つことが目的」実に完結明瞭な生き様です。
けれど、どんな相手ともタッグを組むわけではない。
彼女は会社の重要な顧客であり、権力者から銃推進派(銃規制法案を潰そうとする一派)のロビー活動を依頼されるが一笑し断ります。
なぜか?彼女自身が銃規制派だからです。
勤め人でありながら自身の明確な理論と意志を持ち、既得権益に唾吐く事の出来る勇気と能力を兼ね備えている人物なのです。
私のようなノンポリの日和見主義の人間にとって太陽のごとき眩しさです。強烈に憧れる。こうなりたいと。
でも、見ているうちに憧れを通り越しちゃう(笑)、ここがキャラクターの妙です。

ミス・スローンのキャラクターの素晴らしさ その②ネジの外れ方

「そうまでして勝ちたいか?」を地で行くのが彼女の生き様だが、彼女の異様さは勝ちの先に自身の欲が見えないところだろう。
本来、勝つ事の先には栄光や矜持、誇り、あるいは権力、金といったものがあり、その為に力を発揮するが彼女はそれらの全てを土足で踏みにじって行く。
勝つ為に自身のポケットマネーで接待をし、会社に請求どころかその事実すら話題にせず共に闘うチームメンバーは裏切りの可能性を踏まえて尾行、盗聴を行い、メンバーの中で誰にも言えずひた隠しにして来た過去を勝利の為に効果的と判断するや、断りなく暴き公衆に晒しさえする。
多くの情報を取り入れ戦略の微調整を繰り返す精緻さを備えながらも、誇りも権力も金にも目もくれず勝ちに固執する姿は得体の知れぬ怪物だ。このスタンスは素晴らしく新鮮だった。

ミス・スローンのキャラクターの素晴らしさ その③人間らしさ

ロビイスト怪物のままでは、全く共感できずに終わってしまうが、ミス・スローンはちゃんと分かち合える弱みも備えてもいる。
①車の運転免許を持ってない(なんと路上実技試験で落ちたからだそう)
②エスコートボーイを金で買って一夜の慰みを得ている
③自分の判断のせいで、命の危機に晒してしまったメンバーの為に、たった一人で勝負に何の効果もないのにただ自身の過ちを謝りに行く。

→自責の念にもかられ衝動的な行動にも出る。

ぶっ飛んでない面だ。この緩急こそ本作の一番の魅力だ。
ストーリー自体もこの緩急によってラストには素晴らしいカタルシスをもたらしてくれる。
冷たく無配慮で勝利のみを求める怪物ミススローンが、自分の犯した過ちを後悔し懺悔する人間へと変貌すると同時に本当の悪を鮮やかに暴き断罪し、叩き伏せる。
ミススローンは善良なる市民などでは決してないが、人の面を見せている時に世直し展開となるのが実にニクイ演出だ。
この時、私達観客は自分達の側の勝利を自然と感じる事ができる。
それは彼女の人間らしさあってこそなのだ。

トップシーンから全てが歯車と化しているストーリー構成の素晴らしさ

優れた脚本とは、冒頭のトップシーンの見方がラストで一転しているのを体験できる脚本だ。
本作冒頭はミス・スローンのアップから「ロビー活動とは、予見すること」という一言から始まる。
見終えた時、ラストの展開に至るまでの全てを見通していたミス・スローンの恐るべき慧眼に舌を巻く。
是非、予見して見て欲しい。それでもなお、見通せないのはミス・スローンという人物を読み切れないからだ。
この複雑多岐なキャラクターを生み出した作品に敬礼です!

ほとばしる熱いプロフェッショナリズム

ミス・スローンは怪物だから置いといても、一緒に働いてるメンバーも最高に燃えている。
それを端的に表しているのが仕事中の会話部分!かなりの分量の専門用語を1.5倍速程度の速度でキャッチボールを繰り返す会議が凄い!実際にこれ日々やったら、どんだけ会社上方修正しちゃうだろ…って気持ちにさせる。
そのキャッチボールを「分かりません」の一言で止めた若きチームメンバーに対してミス・スローンが告げる「自分の仕事を熟知しなさい」の一言に込められている勉強量、情報集積量の多さ、何よりプロフェッショナリズムに頭が下がります。
情熱と能力を描くのに知識の量と掘り下げたキャッチボールの二つで表しているのは大変理知的な上にテンポ花マルでカッコ良かった。

現・銃規制の矛盾と既得権益者による腐敗に真っ向から食らいつくテーマ

「NRA(全米ライフル協会)」へ抱く激しい怒りをミススローンの言葉を借りてこの世界に叩きつけてます。この「言いたい事」が明確なのがまた熱い!映画は結局は娯楽が第一の要素です。
なのに”ただ面白いだけの話なんて私は作らない”という鋼のようなクリエイター魂を感じるのは私だけだろうか。
面白いのは当たり前、その上で、世の中に提起していく激しさもっているこの作品を尊敬の念を持って観てしまいます。
そして願いの込められたメッセージは至極真っ当で、理にかなっているものばかり。
当たり前とされている通底観念がどれほど狂っているか。正しさとは何か?
善悪の彼岸なんか見せるまでもなく、圧倒的な正しさにただただ頷くばかりです。
そういう正しさも、世の中にはもちろん沢山あるんだと教えてくれた作品です。

それでも、アメリカでは現在銃規制問題が大きな問題だと考えているのは2017年10月の世論調査ではわずか4%に過ぎないそうです。
本作も、本国ではイマイチ振るわなかったそうで、封切り公開日のブラックフライデーでは、米国の銃販売金額はトランプ需要なのか一昨年の20%増で本作を観るよりも、安売りの銃を買う方を選んだ消費者の方が多かったという記事が出ていました。 (the guardian紙2017.01/05記事より抜粋)

まとめ

ちょっと褒めちぎり過ぎましたが、テーマから構成、細かいネタに至るまで存分練られた職人芸をめちゃんこ感じさせる良い作品ですので、ぜひいろんな人に観てもらいたい作品です!
何より、反骨精神を忘れかけたらぜひ!

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